#8 邪兎屋のビデオ鑑賞会 - 1/6

 ――これは少し前の、アンビーがアキラとリンに『ビデオ』を頼んだ頃の話である。

「パエトーンに、18禁ビデオの仕入れをお願いしたぁ!?」

 ニコのどでかい声が事務所に響き渡り、耳の良い猫又は慌てて三角耳を塞いだ。そのすぐ隣にいたビリーはというと、聴覚モジュールの調整の為に現在全ての聴覚機能はオフになっており、悠々と隣で部品を弄っている。

「ニコ、正確にはパエトーンではなくビデオ屋店長としての二人にビデオの仕入れをお願いしたの」

 アンビーの訂正は届かず、ニコはハラハラとした様子で頭を両手で抱えている。

「ししししかも兄妹モノの映画って、アンビー、それ思いっきり『パエトーンのふたりは兄妹だけど恋人同士ってコトこっちはわかってるのよ』って言ってるようなもんじゃない!」
「…………言ってはいないけれど」
「言ってないけど伝わるでしょ!?」
「でも、もしそれが真実なら私はもっと二人のことを理解したいわ。プロキシ先生たちのこと、信頼しているし、好ましく思っているもの」
「~~~~~っ、アンビーのその純粋な心は今ここで発揮するべきではなかったわ」
「?」
「あーもう、そんなんじゃあの二人に容易に話しかけることもできないじゃない!」
「そうかしら? でもニコが話せないなら、用がある時は私が行ってくるわ。いつでも言って」
「アンタが行ったら余計に話がこじれるでしょ!? もうっ、ちょっとほとぼりが冷めるまでアンタは! あのビデオ屋には! 出入り禁止!!!!!」

 ビシッ!! と音が鳴りそうな程勢いよくニコの人差し指がアンビーの眼前に振り下ろされると、アンビーは少し小さな声で「わかったわ」と返事をした。

「――どれどれ~……ォオ!? 安く買ったやつだけど前のより雑音入らねーかも! なあなあ聴覚モジュールのアップグレード終わったからさ、誰かなんか俺に言ってみてくれよ~! あ、やっぱ音楽を音量でかめでかけてみるってのでもいいか!? いやこういう時は小さい音がちゃんと拾えてるかの確認をした方がー……って」

 一人ウキウキわくわくとしたビリーに、冷たい視線が注がれる。ビリーは空気を読み取ったのか、「あれ?」と辺りをキョロキョロと見回す。ニコは険しい顔でアンビーに指を差したままビリーを振り向き、アンビーは心なしかしょぼくれた顔をしている。猫又は呆れたように額を抑えていた。

「何かあったのか?」
「ニコがアンビーをビデオ屋出禁にした」
「でっ、出禁だぁ~~~!?!? ……なんで?」

 そんなビリーに対して仕方なし、というように猫又は先ほどの出来事をかいつまんで説明してやったのだった。

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