君に似た君じゃない君 - 1/7

 背中の痛み、
 何かが弾ける音、
 目の前が真っ白になって、


 僕は、
 柔らかな色合いの天井を見つめていた。





「──悠真~、起きてるの?」

 ガチャリ、と音がして僕はそちらの方を見た。

「もう、まだベッドの上じゃない。いつまで寝てるの、遅刻よ!」
「え……と……?」

 何と言えばいいのかわからず、僕は口ごもることしかできなかった。

「お父さんはさっき家出ましたからね。お母さんも今日はパートだから、もう準備して行っちゃうわよ?」
「お父さん、お母さん……?」
「あんたもさっさと準備しないと置いて行かれるわよ? あの子早起きしてあんたの分もお弁当作ってくれたんだから、さっさと着替えちゃいなさい」

 パタン、とドアが閉まる。
 僕は部屋の中をぐるりと見回した。

 ──僕の、部屋。

 机の上には昨日やった宿題のノートが載っていて、そばには鞄が置かれている。
 部屋の隅には最近始めたギターが立てかけられていて、近くにはバスケットボールが転がっている。

 これが……僕の部屋。


「……?」

 何か居心地の悪さを感じながらも、僕はベッドから降りた。
 クローゼットを開ければ制服がかかっている。
 シャツと紺色のブレザー。
 それらに袖を通し、ベルトを締めると僕は荷物を片手に部屋を出た。
 
 階下へ辿り着くと、すぐ傍らに扉の開いている部屋があった。どうやらリビングらしい。
 顔を覗かせるとキッチンの方から水を流す音が聞こえてきた。

「あ! おはよハルマサ!」
「えっ」

 僕の名前を呼ぶ、女の子。
 僕と同じ学校の制服を着ている。
 色素の薄い髪色で、丸い目をぱちくりとしてこっちを見ていた。

「ハルマサの分のおべんとテーブルの上にあるよ!」
「お弁当?」

 先ほど『お母さん』も言っていた。僕の分のお弁当がどう、とか。

「今日はねぇ~……っと、もうこんな時間! 家出ないと遅刻しちゃうよ~、ほらほらハルマサも早く出るよ!」
「あ、ああ、うん。えっとその前に……君、は」

 名前がわからない。
 なんとなく聞くのが憚られるような気がしたけれど、聞かずにはいられなかった。
 女の子はきょとんとした顔で僕を見ると、とてとてと近寄ってきた。

「……君? 君なんて今までにハルマサに呼ばれたことないよ、変なの。お熱でもあるの?」
「いや熱は……ないよ」
「いつもみたいにあお って呼べばいいのに!」
「あお……?」
「ほらほら、お熱がないなら早く学校行こ! 私の方の一年生棟は結構距離あるんだから! 遅刻したらすっごく怒られちゃうからわたしヤだよ~」

 蒼──が、僕の手を引き急かすようにして二人で家を出た。
 僕はすぐさま振り返って家の外観を見る。

 これが、
 僕の家。

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