背中の痛み、
何かが弾ける音、
目の前が真っ白になって、
僕は、
柔らかな色合いの天井を見つめていた。
「──悠真~、起きてるの?」
ガチャリ、と音がして僕はそちらの方を見た。
「もう、まだベッドの上じゃない。いつまで寝てるの、遅刻よ!」
「え……と……?」
何と言えばいいのかわからず、僕は口ごもることしかできなかった。
「お父さんはさっき家出ましたからね。お母さんも今日はパートだから、もう準備して行っちゃうわよ?」
「お父さん、お母さん……?」
「あんたもさっさと準備しないと置いて行かれるわよ? あの子早起きしてあんたの分もお弁当作ってくれたんだから、さっさと着替えちゃいなさい」
パタン、とドアが閉まる。
僕は部屋の中をぐるりと見回した。
──僕の、部屋。
机の上には昨日やった宿題のノートが載っていて、そばには鞄が置かれている。
部屋の隅には最近始めたギターが立てかけられていて、近くにはバスケットボールが転がっている。
これが……僕の部屋。
「……?」
何か居心地の悪さを感じながらも、僕はベッドから降りた。
クローゼットを開ければ制服がかかっている。
シャツと紺色のブレザー。
それらに袖を通し、ベルトを締めると僕は荷物を片手に部屋を出た。
階下へ辿り着くと、すぐ傍らに扉の開いている部屋があった。どうやらリビングらしい。
顔を覗かせるとキッチンの方から水を流す音が聞こえてきた。
「あ! おはよハルマサ!」
「えっ」
僕の名前を呼ぶ、女の子。
僕と同じ学校の制服を着ている。
色素の薄い髪色で、丸い目をぱちくりとしてこっちを見ていた。
「ハルマサの分のおべんとテーブルの上にあるよ!」
「お弁当?」
先ほど『お母さん』も言っていた。僕の分のお弁当がどう、とか。
「今日はねぇ~……っと、もうこんな時間! 家出ないと遅刻しちゃうよ~、ほらほらハルマサも早く出るよ!」
「あ、ああ、うん。えっとその前に……君、は」
名前がわからない。
なんとなく聞くのが憚られるような気がしたけれど、聞かずにはいられなかった。
女の子はきょとんとした顔で僕を見ると、とてとてと近寄ってきた。
「……君? 君なんて今までにハルマサに呼ばれたことないよ、変なの。お熱でもあるの?」
「いや熱は……ないよ」
「いつもみたいに蒼 って呼べばいいのに!」
「あお……?」
「ほらほら、お熱がないなら早く学校行こ! 私の方の一年生棟は結構距離あるんだから! 遅刻したらすっごく怒られちゃうからわたしヤだよ~」
蒼──が、僕の手を引き急かすようにして二人で家を出た。
僕はすぐさま振り返って家の外観を見る。
これが、
僕の家。

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