#2 「俺は安眠枕じゃねーっつーの!」 - 1/4

 これはビリーが修理の為白祇重工へ来るよりも少し前の話――。

 現場の仕事を終えた白祇重工社員たちは、週末の予定を話しながら帰り支度をしているところだった。アンドーとベンも例に漏れず、重機を倉庫に片づけながら「明日は朝からジムに行く」だの「経理の仕事が残っているから休日出勤をしなければいけない」だの話している。そこへ、小さな体のクレタが駆け寄っていった。大人に混じって動き回る様子は傍から見れば子どもが遊んでいるように見える。が、その顔は疲れた大人そのものだった。

「アンドー、ベン。ようやく今週も終わったな~。今回はちと足腰にきたぜ」
「ははっ! 社長、そんなこと言ってっと背伸びませんよ? 週末はしっかり寝た方がいいっすね~」
「おいアンドー、てめぇ喧嘩売ってんのか? ……まあ、しっかり休んだ方がいいのはわかるけどよ。でもそんなんはあたしよりグレースだぜ」

 クレタが言うと、アンドーもベンも倉庫内の隅を振り返る。グレースも現場で少し仕事をしていたが、帰ってきてからは他の仕事に熱を入れている。その“他の仕事”にはここ最近ずっとかかりきりで、もう何日も会社に寝泊まりをしているのだ。

「グレースか……社長、あれは俺達が言って何とかなるような奴じゃ……」
「んなこたぁわかってんだよ! でもベンだって知ってんだろ? 今はあそこまで根詰めるような時期じゃねぇ。準備も時間がかかるし。……あたしはただ、姉貴をちゃんと寝かせてぇだけなんだよ」

 むすっとした顔をするクレタに、ベンはため息を吐いた。アンドーは腕を組み、グレースを見つめている。

「どうやって寝かせるかはオレにはわかんねーっすけど、息抜きっつーのが足りねーんじゃないですかい? ほら、オレなんかは筋トレすりゃ息抜きにもなってさらには良く眠れますよ!」
「アンドーはそうだろうけどよ。姉貴は……」

 三人ともしばし上の方を見てグレースについて頭を巡らす。そして三人とも、頭の中には恍惚の表情で機械を弄るグレースがいた。

「メカを弄らせれば喜ぶだろうが、それでグレースの息抜きになるかどうか……」
「おいベン、うちの重機兄弟 たちのメンテはもうアイツがやってるじゃねーか?」
「待てお前ら、姉貴にメカ弄らせても息抜きどころか朝まで寝ない勢いになっちまう」

 クレタは肩を落としてふらふらと立ち去ろうとした。

「ま、いーさ。今日はちゃんと寝ろって言ってみるよ」

 ひらひらと手を振ると、クレタはふたりに「お疲れさん」と声をかけて行ってしまった。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!