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邪兎屋の仕事で外に出ていたアンビーがノックノックの音に気が付いたのは、六分街の雑貨店141の前を通り過ぎた時だった。夜の六分街は街灯があるといえど幾分か暗い。携帯端末を取り出して画面の明かりをつければ、アンビーの顔が照らされた。送り主はビデオ屋の店長リンだ。アンビーは表情を変えないが少し急いだようにメッセージの内容を確認する。
『アンビー!』
『言われてたビデオ』
『用意できたよ!』
『本当?』
『嬉しい』
『ありがとう』
『いつ取りに来れる?』
『こっちはいつでも』
『ごめんなさい』
『ビデオ屋へは行けない』
『出入り禁止とニコに言われていて』
『ええ!? どうして!?』
『ニコが何で出禁にしたかはわかんないけど』
『私は全然大丈夫だよ!』
『アンビーが来れる時に来て』
『それじゃあまずニコに聞いてみるわ』
『ありがとう、プロキシ先生』
そう返事を送って、それからビデオ屋を見ながら前を通り過ぎていく。
今寄って行けばすぐに頼んでいたものが手に入るというのに、アンビーはその性格ゆえ律儀にニコの命令を守っているのだ。
「……ニコは許してくれるかしら」
アンビーは不安からかぽつりと言葉を零すと、その後は何事もなかったかのように前を向いて帰路へとついた。
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