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リンからメッセージがあった翌日、アンビーはビデオ屋へと赴いた。出入り禁止を言い渡していたニコは、リンからの連絡のことを聞くと諦めたように「いいわ、行って来なさい」と言ったのである。そして手に入ったビデオが今、アンビーが手にする紙袋の中に入っている。
「………」
ちらり、と袋の中を覗くと分厚いビデオケースのパッケージが見える。そっと手を差し入れ、中身を取り出す。タイトルの<二人暮らしの兄妹~ひとつ屋根の下で全部教えて~>は細い字体で書かれ、儚いイメージを抱く黒髪の男女が身を寄せ合っていた。
「………」
アンビーは静かにビデオを戻すと、紙袋の口を丁寧に折りテープを貼り直し、大事そうに抱えて足早に歩き始めた。
――そのビデオを再度紙袋から出したのは、それからしばらくして邪兎屋の仕事がひと段落した後のことだった。
「猫又~? ちゃんと事務所のドアに張り紙してくれたー?」
「バッチリ! 『ビリー立ち入り厳禁』って書いて貼っておいたぞ~」
「よし、これでおこちゃまは入ってこれないわね!」
猫又がぴょんとソファに飛び乗ると、ニコもソファの端に座り、アンビーが大事そうに両手で持つビデオのパッケージを両側から覗き込んだ。
「これがパエトーンが用意したR指定ビデオねぇ……なんだか安っぽそうな映画ね」
「アンビー、これって何時間あるの?」
「96分って書いてるわ、1時間36分よ」
猫又の質問に、アンビーはパッケージ裏に書かれた情報を指差す。配給会社は見たことの無いところだ。
「……これを観たらプロキシ先生たちのことがもっとわかるのよね」
「いやーそれはどうだろう。さすがに二人を題材に作られたお話ってわけじゃないんだから~」
「とにかくさっさと見ましょ! お菓子とジュースの用意はした!?」
「ニコ、準備万端よ」
「いやあお二人さん……さすがにそんなわくわくして観るようなのじゃないのでは。エッチな18禁映画でしょ?」
「別にエロが目的のアダルトビデオじゃないんだから楽しみ方はこれで合ってるわよ!」
「ニコ、それでもパッケージの裏には主人公の兄と妹がシーツの上で裸になっているシーンがある」
「わかってるわよ! ただいかがわしいだけの映画じゃないでしょって言ってんの!」
「おーい二人とも~、ビデオさっそく入れてもいい~?」
猫又がビデオデッキに件のビデオを差し込む。
アンビーは真剣な表情でじっとテレビ画面を見つめた。
ニコはさっそく半額のシールが貼られているお菓子の袋を開けると一口つまんだ。
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