#8 邪兎屋のビデオ鑑賞会 - 4/6

 <二人暮らしの兄妹~ひとつ屋根の下で全部教えて~>

 タイトルはアダルトビデオ然とするものの癖に、始まってみれば雰囲気は陰鬱としている。ちなみに口コミサイトでは『タイトル詐欺!』と低評価がついているのをアンビーはよく見かけた。しかし口コミの中には「一つの芸術作品として見るべき」「エロいのを期待して見たら泣かされた」「多分二度と見ないけど忘れられない作品」といったような高く評価をしているものもあった。

 仲の良い兄妹が幼い時代からストーリーは始まり、その後学生服を着た年代まで足早に進む。
 2つ年が離れている兄と妹は田舎の安いボロアパートで父と母と暮らしていたが、ある日突然両親が失踪してしまう。何日待っても帰ってこない両親。兄妹は遠い親戚に引き取られることになったが、あまりにも二人離れようとしない兄妹に男女の関係になるのではと大人たちは忌まわしく思い、それぞれ別々の親戚が引き取ることになる。しかし唯一の肉親と引き離され、二人はそれぞれの家で癇癪や問題行動を起こし、手を焼かせることとなる。数年が経ち、親戚から見放され、学校にも通わなくなった妹はある日隣町で兄を見かける。兄も学校へは通わずに違法なバイトに手を染めていた。
 兄がバイト仲間のツテでアパートを借りれることになり、妹を連れて遠い町へと移り住む。手入れのされていないアパートのワンルームで二人暮らし、妹は少し離れた街中でアルバイトを探そうとするが、身分を証明するものがなく門前払いを食らってしまう。そんな中兄は慣れない工事現場でのバイトで右腕を失うこととなり――お金に困った妹は、仕事を探しに出かけた街中で男に声をかけられ、売春を知る。

『お兄ちゃん、この体はお金になるんだって』
『何言ってるんだ、やめてくれ、俺が外で稼ぐ』
『できないよ、お兄ちゃん、腕がないのに』
『片腕がなくたって、なんとかなる』
『いいのよ、私がどうにか――』
『お前の綺麗な体を、そんな汚いことに使えない!』

 兄の片腕に抱き寄せられ、呼吸を止める妹。
 兄の愛情に涙し、頬をすり寄せ妹からキスをした。

『お兄ちゃん、体の使い方、教えてよ。私に教えて。そうしたらちゃんとお金を持って帰ってこれるから』
『そんなのいい、ずっと俺だけのものでいろ』

 片腕の兄に組み敷かれ、女の声を上げる妹。
 まだ年端も行かない二人が、ただ獣のように体を求め合う。

 その後アンダーグラウンドな人間たちが住むその地域でさえ、この二人について噂になっていく。段々と外に出るのもはばか られるようになり、二人は部屋に籠り切り、肌を重ねるだけの日々。いつしかそのアパートが取り壊されるとの知らせがドアポストに投函されたが、それに気づくこともなく、金も食料も尽き、二人はそっと小さな浴槽の中で手首を切り、命を絶つことにした――

 ――ちゃぷちゃぷという水音の中、回想される兄妹の記憶。
 ――兄を呼び、嬉しそうに抱きつく幼い妹。
 ――妹を抱き止め、優しく頭を撫でる幼い兄。

『私、大きくなったらお兄ちゃんと結婚するの!』
『じゃあ大人になったらお兄ちゃんが指輪買ってやるからな』
『約束だよ!』

 ――切った手首から血が流れ、手を握り合った兄妹の指に絡むように伝っていく。

 水に赤い色が滲む演出で、映画は終わった。

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