#8 邪兎屋のビデオ鑑賞会 - 5/6

「……プロキシ先生たちも、ふたりの関係を誰にも受け入れてもらえなかったらこうやって命を絶ってしまうのかしら」

 静かな音楽が聞こえるエンディングロールが流れる中、アンビーはそっと呟いた。
 お菓子を食べる手が止まっていたニコが、目を見開くようにアンビーを見る。
 猫又も、じっと息を呑んで足を抱えた。

「そんなわけ……!」

 すぐに反論しようとしたニコだったが、映画の中で言っていた妹の『みんな当たり前に恋をしていて、私も同じようにしてるだけなのに、誰にも理解してもらえない』という台詞が頭を過ぎった。

「……す、少なくともあの二人はお金がなくて死に追いやられるような状況にはないわ。今のところ」
「でもニコ、ニコがお金をちゃんと払わないと二人はいつかお金に困ってしまうかもしれない」
「うっさいわねぇ! あとでちゃんと払うわよ! ……分割できないか交渉しないと」

 パエトーンへの借金額と分割回数をぶつぶつと計算しているニコを横目に、猫又が残っている袋菓子に手を伸ばした。

「ま、思ってたよりはいい映画だったんじゃない? ストーリー自体はなかなか重かったけど、途中途中のシーンは絵になってたというか綺麗というか? 最後のシーンも悲しいけど綺麗だなーってあたしは思ったよ」

 猫又が湿気たポテトチップスを噛み砕いてそう言うと、アンビーはしっかりと頷いた。その頬には涙の痕がある。どこの部分で泣いたんだろうかと猫又はもう一枚ポテトチップスを口に放り込みながら考えた。

「……とてもいい映画だったわ、今度もう一度見てみようと思う。一回見ただけじゃ、この子たちの考えが読めなかったから。あと、両親のことも」
「両親についてわかるとこなんてあったかなぁ?」
「最初の方に両親が映っていた写真立てや何かの書き置きがあったりしたの。一時停止してよく見てみないと」
「アンビーはほんと映画のことになると熱心だ」

 アンビーと猫又の会話をよそにお金の計算をしていたニコは突如立ち上がると、意を決したように拳を握った。

「よし、行くわよ!」
「ニコ、どこへ行くの?」
「どこってもちろんパエトーン……あの二人のところよ! 分割払いの話をしに行くわ。善は急げってね!!」

 ニコはずんずんと歩いていき、事務所の出口へと向かった。

「ニコもきっとプロキシ先生たちが心配になったのね」
「……ニコってば結構影響されやすいんだな~、そーゆーとこがかわいいぞ!」

 アンビーと猫又が後を追うと、ニコが事務所のドアを開けようと……四苦八苦していた。

「何をしているの、ニコ」
「ドアが開かないのよ~!!」
「んん~? どれどれ~??」

 ニコとアンビーと猫又が三人でドアを押してみると、何かが外でずずず……と動いた。猫又が少しだけ開いたドアの隙間から顔を出し見てみると――

「……あれ、ビリーがドアの前で座り込んで停止してる」
「ちょっとビリー! ビリー!! そこどきなさ~い!!!」

 少ししてビリーが動き出し、慌てて立ち上がるとドアを開けた。

「わりぃわりぃ、なんか入るなってドアに貼ってたからよーしばらく仮眠でも取るかと思って機能を一時オフにー……ってかなんで俺立ち入り厳禁になってたんだ!?!?」

 ニコ、アンビー、猫又の三人は顔を合わせて黙り込んだ。

(((そういえば張り紙貼ってたっけ)))

 ……などと、口には出さずとも三人ともが同じことを考えていた。

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