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「パエトーン!! アンタ達お金に困ってない!?」
バーン!! と勢いよく開かれたビデオ屋奥の扉。
中には驚いた顔のアキラとリン。からの、呆れた表情とため息。
「ニコ、その毎回いきなり入ってくる芸やめてくれない?」
「僕たちは今のところお金に困ってないけれど、ニコからの返済が滞っていることには困っているよ」
「わ、わかってるわよぉ! だから、そのぉ~……」
「「?」」
ニコが分割払いについて言い出せずもじもじとしていると、その後ろからひょっこりと邪兎屋の従業員たちが顔を出した。
「ニコ、しっかり言った方がいいわ」
「そうだぞニコ~、ニコの返済が二人の命を救うんだぞぉ?」
「そうだそうだ! って、命を救うってなんだ?」
アンビーや猫又、そしてビリーの言葉にニコは上手く言えずにいた口を小さく開いた。
「その、し、支払いをぉ……分割払いにしたくって……」
「え? 今でも払える時に細々と返してるじゃない」
「そうじゃなくて! ちゃんと毎月決まった額をってことよ!」
「ええ~!? あのニコが、毎月決まった額を支払ってくれるの!? 今日は一体どうしちゃったの??」
「うっさいわねぇ!! あたしだってね、払う時は払うんだから!!」
「……ニコ、僕たち今のところ本当にお金に困ってはいないよ?」
リンやアキラの心配をよそに、ニコはどこから出したのか薄い封筒を二人に押し付けた。
「……来月も! 同じ額払うから! 返し終わるまでしっかりパエトーンを続けてなさいよね! あと命は大切にしなさい!!」
「「???」」
ニコが言い切ると、アンビーと猫又も頷いてプロキシ兄妹に寄ってきた。
「プロキシ先生たちがいなければ、邪兎屋はきっとこの先やっていけないわ」
「アキラ~リンちゃん~この世には楽しいことがあるんだ、もっと視野を広く持たなきゃだめだぞ?」
「そうだぜ店長たち! なんかよくわかんねーけど、楽しく生きよーぜ!!」
言いたい事を言い終わったのか、邪兎屋の面々は部屋からぞろぞろと出ていく。
ぽかんとしたままの兄妹を置いて。
しかし、ひょっこりとアンビーが一人で戻ってきた。
閉まりそうになっていたドアの隙間から顔を覗かせ――
「あの映画 、とても勉強になったわ。本当よ。
……だからプロキシ先生たちが
手を繋いでいても、
体を寄せ合っていても、
どこで何をしていても 、
私たちは誰も気にしないから。安心して。
――それじゃ」
アンビーは少しだけ笑うと、丁寧にドアを閉めて行ってしまった。
壁を隔てた向こうでもう一つのドア――ビデオ屋の出入り口が閉まる音が聞こえた。
邪兎屋がいなくなり、店内はしんとなる。
まるで嵐が去ったようで、アキラとリンは顔を見合わせた。
「……ア、アンビーったら何言ってんのかな~あはは」
「アンビーは映画に影響されやすいからね」
そう言って目が合い、アキラとの距離が近いことに気が付いたリンはハッとしたように一歩横に体をずらす。
アキラもそれに気が付いたのか、少し気まずそうに頭を掻いた。
「やっぱりアンビーにあの映画を渡したのは失敗だったかもしれないな」
「そうだね……こ、今度からは、全部断ろう! あいや、その、兄妹モノの映画は、断ろっか」
そう言うとアキラもリンもアンビーに渡したビデオの内容を頭の中で思い返し……じわじわと顔を火照らせ始めたのを見張り番である6号は見逃さなかった。
「ンナ、ンナナ」
(訳:二人とも、ゆでだこみたい)
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