「ん……ああ、切ったのか」
何も言わず勝手に切るなんて珍しいなと思いながら――少し違和感を感じる。
さっきまでグレースさんに抱きかかえられていた為、背中に圧を感じていたのだけれど……それが今も変わらず、感じる。見れば首周りに腕が巻き付いている。これは、リンのか。
「……リン?」
身を捩 れば、違和感の正体にすぐ気が付く。
椅子に座っている僕の後ろからリンが抱きついているんだ。
何故かは……わからないけれど。
「戻ってきたよ、リン。――リン?」
リンは何も言わない。
何かあったのだろうか、顔を見ようとすれどもリンの顔は僕の肩にうずめられている。
「………」
少し体を動かそうとして――リンの胸が背中に当たっているのを感じ、固まってしまった。柔らかな肉感。先程もイアスを通してグレースさんの胸を感じていたにはいたのだけれど、イアス越しに感じるのと生身で感じるのはまた別だ。
「……リン、その……離してくれないかい?」
「やだ」
「え」
「やだ」
拒否。
まさかそう来るとは思っておらず、僕は何と言えばいいのかわからなくなってしまう。
「だってお兄ちゃん、グレースさんにこうされてたじゃん」
「……グレースさんはイアスを抱いていただけだろう?」
「………」
見なくても、怒っているのがわかる。
何故怒るのか。
お兄ちゃんが取られた寂しさ、だとしたら……あまりにも幼い。
昔ならいざ知らず、今そんなことを考えるだろうか。
ああでも、そうか。考えるかもしれない。
「……リン、ちょっといいかい」
少し断りを入れると、リンはそっと離れて立った。
僕は椅子を回転させ立ち上がると、両手を広げる。
「ええと、そうだな……コホン。おいで、リン」
幼い子を宥 めるように、優しく声を出す。
リンは少し泣きそうな顔で、でもどこか躊躇 ったように、ゆっくりと僕に近づいてきた。
リンが僕の胴体に両手を伸ばし、
背中に手を回す。
僕の胸部に頬を押し付け、
優しく抱きしめてきた。
僕もリンの背中に手を回し、
ぎゅっと抱きしめ返す。
それから、頭をぽんぽんと撫でた。
「……寂しくなったのかい?」
「………」
「ははっ、まるで子どもじゃないか」
「……これでも立派な大人ですー」
少し鼻声混じりの返答。
泣いているのだろうか。
とん、とん、と背中を優しく叩いてやれば、リンは僕の胸に頬擦りをした。
昔から寂しくなるとよく抱きついてきたリン。
その頃と何も変わらない。
ぎゅっと抱いてやると、体が温まって落ち着くのかすぐに離れていくんだ。
僕の体温は低いという癖に、僕の温もりを求める。
僕も、
温かくて柔らかなリンが好きだ。
「……お兄ちゃん」
リンが身を捩って、僕を見上げる。
ぎゅ、とリンの腕に力がこもった。
「キス、ってしたことある?」
リンの唇が震えた。
僕に押し付けられた胸が
布地を通して存在を伝えてくる。
僕は
僕のモノが急に自分が『男』であることを主張し始める。
「――えっ?」
リンの言葉に理解の追い付かない頭と
男女の抱擁に即座に反応をし始める体と
熱望するような表情で僕を見る妹。
今まさに理性を手放せばその小さく柔らかな唇に獣のごとく噛みついてしまいそうになる。逃げようとする腰を引き寄せてそのさらりとした髪を撫で後頭部を押さえるだろう。全て知り尽くしているはずの妹の未だ知らぬ口内を隅々まで調べ尽くすかもしれない。布地に隠され知らぬ間に豊かに育った体を暴いて滑らかな肌の上で指先を滑らせたい。全部を僕のものにしたい執着心が、頭をもたげる。
「……っ」
息を呑んで、
瞼を閉じた。
「お疲れ、リン。少し休憩しておいで」
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