#9 腕の中のぬくもり - 6/6

 ***

 ぽてぽてぽてぽてぽて
 イアスの足音が二階の廊下に響く。
 ぽてぽてぽて ぽて

 真っ先にアキラの部屋へ充電しに行くはずのイアスだったが、リンの部屋の前で立ち止まる。

「……?」

 閉まり切っていないドアに気が付き、イアスはそっとリンの部屋の中を覗き込んだ。
 ソファの上でクッションを抱え込み、小さくなっているリンが見えた。

「ンナ!」

 ただいま、とイアスが声をかけると、リンはゆっくりと顔を上げて微笑んだ。

「おかえり~イアス」
「ンナ?」
「ううん、入っていいよ。……おいで!」

 リンに呼ばれて喜んだイアスはドアを開けてリンの元へと駆け寄って行った。
 リンが体を起こし、ソファに座り直すとイアスを両手で持ち上げ、抱きしめる。

「お疲れ様、イアス」
「ンナ~!」
「無事に帰ってきてよかったよ~、グレースさんに何かされちゃうかと思った」
「ンナナ!」
「ふふっ、怖かったよねぇ」
「ンナ?」
「え? うーんと……ちょっと具合悪くて寝てたの」
「ンナ!?」
「あはは、もう大丈夫だよ。すぐ下に降りるから」
「ンナァ……」
「……イアス、お兄ちゃんどうだった?」
「ンナ?」
「私……お兄ちゃんを傷つけちゃったのかも」

「お兄ちゃん、怯えてた」

 優しく、ゆっくり、イアスを撫でるリンの手。
 視線の先はぼんやりとどこにも定まらない。
 口を閉じ、静かに呼吸する。
 頭の隅で、リンはアキラの表情を思い返していた。

 驚いたような顔、
 困ったような顔、
 それから
 少し肩を震わせ
 何かを堪えるような顔。

「でも私も、なんであんなこと言っちゃったのかわかんないや。変なの」

 呟きは空に溶け、

 リンは自分の唇に触れると、唾を飲んだ。

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