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どんなに泣き叫ぼうとも、スターライトナイトは現れない――。
そう悟ったビリーがようやく解放されたのは最後のパーツがはめられた時だった。
「うん、お疲れ! さあ起き上がっても大丈夫だよ!」
晴れ晴れとしたグレースの表情に、ビリーはげんなりとする。叫び疲れたのか、逃げる気力もない。グレースはというと、ひとしきり遊んで満足した子どものようにニコニコしながら工具を片づけている。そして時折バインダーに挟まれた紙に何かメモを取るようにしては「ここはこの部品に変えても動くかも」と一人頷いていた。
「――それで? あんたが知りたかった“機械人”のことは、なんかわかったのかよ?」
ズボンを穿きジャケットを羽織るとビリーはグレースを一瞥した。グレースは少しの間考えるような仕草をしてから……にっこりと微笑んだ。
「いいや! 何にもわからなかった!」
「ハアアア!? わからなかったって、どういうことだよ!?」
「あははは、安心してくれ。一応君の機体が何がどう繋がっていてどういう素材のものを部品に使えばいいのか、修理に必要なことは全てわかったとも」
「それなのに何がわかんねぇってんだ?」
「うん。それら一つ一つはわかったけれども、結局のところ君がどうして動いてどうやって意思を持っているかがわからないんだ。あとはまるでわからない機構も一部あってね。不思議だなぁ……これが失われた技術 ってやつなのか。文献ではもちろん知っていた知識なんだが、実際目の前にすると首を傾げてしまうものだな。俄然、君に興味がわいたよ!」
「え」
「ということで君の体の謎を解き明かす為にもこれからも私が君の修理担当を請け負いたいんだけれどどうだろう? もちろん私の研究が目的だから部品や修理費は6割私が受け持つよ!」
「なっ……あんたの研究で俺様の体が弄ばれてたまるかよぉ!!」
――その時、扉が勢いよく開かれた。
「いいわ! その話……乗った!!」
「ニ、ニコの親分!?」
「おや? 君の保護者かい?」
「保護者じゃねーっつの! 雇い主だ!!」
「ビリー、今の話聞いてたわよ。その人に修理を担当してもらえば、これからはあんたの修理代に頭を悩ませなくっていいってことよね!? いつもかかる費用の4割で良いだなんて……こんなお得な話他にないわ!!」
「親分……でも結局はその修理費は俺の給料から――」
「さあ、契約書を用意するわ! ちょっと待ってなさい! あ、修理担当のあなたも今更条件の変更は認めないからね!!」
ニコはそう言うとアタッシュケースの中から取り出したノートパソコンを開いてカタカタとキーボードを打ち始めた。本当に契約書を今作っているようだ。ビリーは頭を抱えため息を吐く。
「うん、良い雇用主じゃないか。手際が良いビジネスパートナーは好きだよ」
「親分を褒めてくれるのはいいけどよぉ……はあー、なんで俺はこんなやべー奴にこれからも体をいじくりまわされないといけねんだ……」
「おやおや、そんなに落ち込まないでくれ機械人くん。ああいや……コホン、改めて挨拶をするとしよう」
「?」
「新しく君の修理担当になったグレース・ハワードだ。
これからよろしく頼むね、ビリー・キッドくん」
差し出された手を握り返すかどうか、
ビリーは三分程悩んだという。
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