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深夜の治安局内、ほとんどの治安官は日中の勤務を終え帰宅しているか一部は夜間パトロールに出ている。現在局内に残っているのはパトロールに出ていない交代待ちの治安官が数人。そのうちの一人が、日中こなせなかった書類仕事を待ち時間内に終わらせてしまおうとデスクに向かっていた。
「セスくん、コーヒーどうぞ」
「朱鳶班長! ありがとうございます」
セスがコーヒーを受け取ると、朱鳶は小さく笑みを浮かべる。
「頑張ってるわね」
「いえ、これは頑張ってるうちには入りませんよ。やらなきゃいけないことをこなしてるだけです」
「でも期限は今日中ではないはずよ?」
「朱鳶班長だって、仕事はあっという間に片してしまうじゃないですか」
「私は優先順位をつけて必要なものから片付けていっているだけ。セスくんはもっと余裕を持ってもいいと思うわ」
「優先順位……それはもちろんオレもわかってますよ。でも今は時間がありますし、優先順位の低いものも早めに終わらせられます」
「もう、真面目ね」
「それは……褒め言葉と受け取っておきますね」
少しだけむすっとするセス。――真面目、という言葉は彼にとって褒め言葉にならない場合がある。それをわかってか朱鳶は肩をすくめて「そういえば」と話の流れる先を変えた。
「セスくん、最近休みを取っていないって聞いたけれど本当?」
「非番の日ならもちろんありますよ」
「そういうことじゃなくて、休みもほとんど訓練場に詰めてるって聞いたけど」
「ああ、それならそうです。オレ、もっと鍛えないとって思ってるので」
「君の逸る気持ちはわかるけれど……あまり無理をするといざという時ミスや大怪我に繋がるかもしれないわ」
「班長、オレはオレのことわかってるつもりですよ。心配しなくてもきちんと休息は取ってます。安心してくださいよ、次の任務でもしっかり成果を出すつもりです!」
「セスくん……」
朱鳶は諦めたように口を閉じ、微笑んだ。彼女がデスクから離れていくと、セスはまた書類へと向き直る。そんな様子を部屋に入らず戸口の陰に潜み、聞いていた人物がいた。
「……ふぅん」
二人の会話が何をもたらすのか、その人物は微かに笑ってその場を去った。
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