#4 赤色の痕 - 1/2

 ――私が執行課に配属されてから数年。
 最近、よく六課の蒼角さんと任務で同行することがある。
 そのおかげか少し仲良くなれた気もする。
 話に聞いていた通り蒼角さんはすごく可愛くて優しくて、そしてとっても強くて頼りになる。
 その圧倒的パワーゆえに事故が起きそうになった話も聞いていたから、若干身構えてはいたけれど……それでも、尊敬の方が勝った。
 だから一緒に仕事ができることが嬉しい。
 あとやっぱり、どうしても幼い部分が目立って妹のように思ってしまうの。
 少し危なっかしいことをしてると心配になってしまうし、
 休憩時間にお菓子を食べてる彼女を見ると、もっとお菓子を上げたくなっちゃう。
 一応蒼角さんの方が立場は上ではあるんだけど……
 それでも最近お喋りしてるとつい、「蒼角ちゃん」なんて呼んでしまう。

「――あれっ、蒼角ちゃん?」

 ほら、またついそう呼んでしまった。
 H.A.N.D.の女性用ロッカールームに入って奥のロッカー前に立つ彼女を見かけた時に、私は思わずそう声をかけた。

「あ、こんばんは! お仕事終わったの? お疲れ様!」

 蒼角さんはそう言って私にぺこりと頭を下げてくれる。
 私も慌てて頭を下げて「お疲れ様です!」と言った。

「最近よく会いますよね」
「そうだねっ! こないだも任務一緒だったもんね~」
「ええ」

 私は自分のロッカーを開けて、着替えを始める。
 蒼角さんとはそう距離は遠くない。
 ふと、彼女の方を見た。

「……?」

 蒼角さん、

 蒼角ちゃんが、

 太ももに取り付けていたベルトを外している。

 その内腿部分に――真っ赤な花弁が散ったように、何かがあった。

「……えっ」

 それからシャツを脱ぎ始めると、キャミソールから覗く首元や、鎖骨、胸元にも同じような……

「あの、蒼角ちゃ――」


 思わず、声をかけそうになる。

 今日の任務で汗をかいたのか張り付いたキャミソールを脱ぎ去ると、

 下着姿になった蒼角ちゃんの胸や、お腹や、腰や、至るところに

 ――キスマークがあった。

「……ん? どうしたの?」

 純真な瞳がこっちを見る。

「え……」
「蒼角のこと、呼ばなかった?」
「あっ……え、っと……」

 すぐに言葉が出てこなかった。
 だって、
 あんなにあどけない顔をして、
 まだ未発達な体つきで、
 それなのに、
 いっそ痛々しいと思える程に、体をまさぐられた形跡があるなんて。

 そういえば蒼角ちゃんは浅羽さんと付き合ってる、なんて噂が流れてたっけ?
 こんなに幼い子に……えっちなことしてる、ってこと……?
 そんなのどう考えたって異常じゃない。
 もしかして、
 嫌がる蒼角ちゃんに無理矢理してるとか……!?

「そ、蒼角ちゃん」
「なに~?」
「それって、彼氏にやられた、の?」
「それ?」
「そ、その、体の……」

 私はつい指を差してしまった。
 蒼角ちゃんは自分の身体を見て、「えへへ」と恥ずかしそうに笑って新しい替えのキャミソールをすぐに頭から被った。
 私の問いに、彼女は答えなかった。
 それが、答えだ。

「――絶対別れた方がいいわよ!」
「わ、びっくりした! えーっと、どうして?」
「ど、どうしてって、だって、そんな……い、嫌じゃないの!?」
「???」
「……だってその、は、恥ずかしいじゃない、そんなにたくさんのキスマーク」
「キスマーク? あ、これってもしかしてキスマークっていうの!?」

 彼女の驚いた表情。
 私は困惑してしまう。
 何だろう、この子は。

「へぇー、そっかぁこれがそうなんだ! ドラマとか見てて聞いたことはあったけど、こうやって付けるんだぁ。あれれ、でもハルマサは……」
「あ、浅羽さんが、なんですか?」
「あっううん! なんでもない! それじゃ蒼角もう行かなきゃ! ハルマサが……じゃなかった、えと、待ってる人がいるから!」

 蒼角ちゃんは急いで着替えると、荷物を持って私の横を通り抜けていった。

「それじゃーまたね!」
「え……あ、はい……また」


 ――バタン。

 と、勢いよくロッカールームのドアが閉まる。
 一人残された私の頭の中には、
 あの蒼い肌にたくさん浮かんだ赤色のことでいっぱいだった。

「……私、蒼角さんのことやっぱりまだ何も知らないのかも」

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