――私が執行課に配属されてから数年。
最近、よく六課の蒼角さんと任務で同行することがある。
そのおかげか少し仲良くなれた気もする。
話に聞いていた通り蒼角さんはすごく可愛くて優しくて、そしてとっても強くて頼りになる。
その圧倒的パワーゆえに事故が起きそうになった話も聞いていたから、若干身構えてはいたけれど……それでも、尊敬の方が勝った。
だから一緒に仕事ができることが嬉しい。
あとやっぱり、どうしても幼い部分が目立って妹のように思ってしまうの。
少し危なっかしいことをしてると心配になってしまうし、
休憩時間にお菓子を食べてる彼女を見ると、もっとお菓子を上げたくなっちゃう。
一応蒼角さんの方が立場は上ではあるんだけど……
それでも最近お喋りしてるとつい、「蒼角ちゃん」なんて呼んでしまう。
「――あれっ、蒼角ちゃん?」
ほら、またついそう呼んでしまった。
H.A.N.D.の女性用ロッカールームに入って奥のロッカー前に立つ彼女を見かけた時に、私は思わずそう声をかけた。
「あ、こんばんは! お仕事終わったの? お疲れ様!」
蒼角さんはそう言って私にぺこりと頭を下げてくれる。
私も慌てて頭を下げて「お疲れ様です!」と言った。
「最近よく会いますよね」
「そうだねっ! こないだも任務一緒だったもんね~」
「ええ」
私は自分のロッカーを開けて、着替えを始める。
蒼角さんとはそう距離は遠くない。
ふと、彼女の方を見た。
「……?」
蒼角さん、
蒼角ちゃんが、
太ももに取り付けていたベルトを外している。
その内腿部分に――真っ赤な花弁が散ったように、何かがあった。
「……えっ」
それからシャツを脱ぎ始めると、キャミソールから覗く首元や、鎖骨、胸元にも同じような……
「あの、蒼角ちゃ――」
思わず、声をかけそうになる。
今日の任務で汗をかいたのか張り付いたキャミソールを脱ぎ去ると、
下着姿になった蒼角ちゃんの胸や、お腹や、腰や、至るところに
――キスマークがあった。
「……ん? どうしたの?」
純真な瞳がこっちを見る。
「え……」
「蒼角のこと、呼ばなかった?」
「あっ……え、っと……」
すぐに言葉が出てこなかった。
だって、
あんなにあどけない顔をして、
まだ未発達な体つきで、
それなのに、
いっそ痛々しいと思える程に、体をまさぐられた形跡があるなんて。
そういえば蒼角ちゃんは浅羽さんと付き合ってる、なんて噂が流れてたっけ?
こんなに幼い子に……えっちなことしてる、ってこと……?
そんなのどう考えたって異常じゃない。
もしかして、
嫌がる蒼角ちゃんに無理矢理してるとか……!?
「そ、蒼角ちゃん」
「なに~?」
「それって、彼氏にやられた、の?」
「それ?」
「そ、その、体の……」
私はつい指を差してしまった。
蒼角ちゃんは自分の身体を見て、「えへへ」と恥ずかしそうに笑って新しい替えのキャミソールをすぐに頭から被った。
私の問いに、彼女は答えなかった。
それが、答えだ。
「――絶対別れた方がいいわよ!」
「わ、びっくりした! えーっと、どうして?」
「ど、どうしてって、だって、そんな……い、嫌じゃないの!?」
「???」
「……だってその、は、恥ずかしいじゃない、そんなにたくさんのキスマーク」
「キスマーク? あ、これってもしかしてキスマークっていうの!?」
彼女の驚いた表情。
私は困惑してしまう。
何だろう、この子は。
「へぇー、そっかぁこれがそうなんだ! ドラマとか見てて聞いたことはあったけど、こうやって付けるんだぁ。あれれ、でもハルマサは……」
「あ、浅羽さんが、なんですか?」
「あっううん! なんでもない! それじゃ蒼角もう行かなきゃ! ハルマサが……じゃなかった、えと、待ってる人がいるから!」
蒼角ちゃんは急いで着替えると、荷物を持って私の横を通り抜けていった。
「それじゃーまたね!」
「え……あ、はい……また」
――バタン。
と、勢いよくロッカールームのドアが閉まる。
一人残された私の頭の中には、
あの蒼い肌にたくさん浮かんだ赤色のことでいっぱいだった。
「……私、蒼角さんのことやっぱりまだ何も知らないのかも」
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