「……え、浅羽隊員とビデオ屋に?」
「うん、ハルマサとビデオ見るの! それでね、ハルマサのおうちでねこちゃんと仲良くなるの!」
とてもよく晴れた休日、蒼角はお気に入りのTシャツに着替え終わるとパジャマを洗濯かごに入れながらそう言った。キッチンで朝食の準備をしていた柳は困惑の表情で蒼角がリビングへ戻ってくるのを待っている。
「……ええと、ビデオと、猫はどういう関係が……?」
「うんとね、ハルマサのおうちにはねこちゃんがいるんだけどね、とっても怖がりさんでね、それでわたし、お友達になりたいんだけど、ただ行くだけじゃきっとまた怖がられちゃうから、ビデオ見にきたんだよ~何でもないからね~ってふりして、会いに行くの!」
「なるほど、浅羽隊員の飼い猫が警戒しないようにビデオに集中しているふりをして様子を伺うんですね」
「そう! あ、でもねでもね! ビデオも見たいんだよ! この前プロキシのお店に行ったらね、おもしろそうなのがね、い~~~っぱいあって! 迷っちゃって!」
「そうですか……ビデオなら私とも一緒に見ましょうね」
「うん! ナギねえとも見る!」
「……浅羽隊員、まさか猫でうちの蒼角を釣ろうと……?」
「え、何?」
「あ、いえ、こちらの話です」
柳はトーストとサラダ、分厚いベーコンの上に目玉焼きが載ったプレートをテーブルの上に置いた。もちろん蒼角の方は量が倍だ。
「いっただっきまーす!」
「はい、召し上がれ」
嬉しそうにベーコンと目玉焼きを一緒に頬張ると蒼角はもぐもぐと咀嚼し飲み込む。それから次にトーストを口に放り込むとボウルの中のサラダをがつがつと食べた。柳はそれを見て幸せそうに微笑むとコーヒーカップに口をつける。
「蒼角、もっとゆっくり食べないと喉を詰まらせますよ」
「ふぁいひょふひゃひょお~~~んん~~~もぐもぐ、ごくんっ」
「ほら、またお口の周りにいっぱいつけて……」
「ふぇ?」
柳は蒼角の口元をハンカチで拭った。
頬が擦れ、蒼角は思わず目を瞑る。
「はい、取れましたよ」
「ありがとナギねえ! ……あれ?」
「どうかしました?」
蒼角はふと、首を傾げる。うーん、と唸りながら先日のことを思い返していた。
(ハルマサもナギねえとおんなじように口についちゃったごはん取ってくれるけど、ナギねえは拭いておわりで、ハルマサは食べてたなぁ……)
(もしかしてハルマサ、もったいないよ、お口のまわりにつけちゃわないように全部食べなきゃだめだよっておしえてくれてるのかな……!?)
「──蒼角、今までいっぱいもったいないことしてたのかも!」
蒼角はわわわわと慌てるように顔を青くさせると、「これからはお口につけないようにきれいに食べるからだいじょうぶ!!」とすごい気迫でテーブルを叩いた。
「ええ……? ええと、そうですね。綺麗に食べれば上品ですしね……?」
柳は、急な蒼角の気づきに違和感を覚えつつも「もしかしていつも拭いてあげるのは甘やかしすぎだったでしょうか」と自分のこれまでを振り返り反省をした。
「──そういえば、どんなビデオを借りたいんですか?」
「んーっとねー、えーっとねー、カイジュウが出てくるのとかぁー、過去に戻ってやりなおす……? みたいのとかぁー」
「そう……それを、浅羽隊員と見るんですか?」
「うん! あ、ハルマサが見たいのもあるかなぁ……」
「浅羽隊員が見たいビデオ……」
柳はふむ、と口元に手を当て、それからはっとしたように目を見開いた。
「蒼角、浅羽隊員はどの女優さんが好きか聞いてみるといいですよ」
「どのじょゆうさん?」
「ええ、浅羽隊員も男の子ですから。好きなタイプがあるでしょうし」
「ええ~? えっと、それをハルマサに聞いたらいいの?」
「はい。──もしもこれで大人っぽい綺麗なグラビア系女優だったりすれば蒼角への感情も私の杞憂だとわかるかもしれませんし」
「え? ぐらびあ?」
「あ、いえ! こちらの話です!」
慌てて顔の前で手を振ると、柳は自分の朝食に再度手を付けた。朝食が終わればさっそく洗濯をしようか、と柳は外の天気を見ながら思った。
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