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「……柳、何か不服か?」
雅はそう言いながら、メロンパフェにスプーンを差し入れている。
「……不服、ということじゃないんです」
対する柳は、恥ずかしそうに顔を赤らめながらも鎖骨の間で揺れる一粒ダイヤのネックレスに触れていた。

──ファッションビルでの買い物を終えた二人は、近くのカフェで軽食を取っていた。雅はメロンパフェを、柳はカフェインレスのコーヒーとショコラケーキを目の前にしている。
「だって、これじゃまるで本当にデートみたいじゃないですか。靴に服、さらにはこんな高価なアクセサリーまで買ってもらうなんて」
「高価だったか? こういったものはあまり自分では買わない為、相場はわからないのだが」
「少なくとも、ただの部下に買うようなものではないです」
「ただの部下に買ったつもりはない。それに、これは本当のデートだと私は思っているのだが、違うのか?」
「大体課長はエーテリアスと戦う以外のことになるといつも常識が…………………え? 今、なんて言いましたか?」
「む?」
雅は首を傾げ、両耳を揺らした。
「今日はデートで、私が柳に買ってやりたいと思ったから、買った。これは間違いだったのだろうか」
「……あの、課長」
「………」
「……雅」
柳はほんのり赤かった頬を、さらに赤らめて雅を見つめた。
「今日のデート、というのは……その、本当の、ええと……恋人同士がするようなもの、ということですか?」
「……そうだ。最初からそのデートに誘ったつもりだったのだが」
「あ……」
「今日のデートは、楽しかったか?」
「それはもちろん!」
思わず、と言うように柳は少し身を乗り出して応えた。
そう、今日のデートは楽しかったのだ。
柳の靴や服を一生懸命選ぶ雅の様子はいつも職場で見るものとは違い新鮮に感じたし、何より自分を思って選んでくれているのだということがくすぐったくも嬉しく感じた。さらにはアクセサリーを見ていた時の雅はいつにもまして真剣な顔で、柳がそれを試着してみせればとても愛おしそうに笑うのだ。
それが、柳の胸を締め付けた。
「……でも、あの、私てっきり雅がまた修行を目的にデートをしたいと言っているのかと……」
「デートは修行にはならないだろう」
「そんなもっともなことを言わないでください!」
「むぅ」
どういう意図でそう言われたのかわからず、雅はパフェのてっぺんに鎮座していた一口大のメロンを食べると不思議そうな顔でもぐもぐと口を動かした。
「……しかしデートというのは存外時間がかかるものなのだな。できれば他にもいろいろと見て回りたかったが……今日のところは帰るとするか」
「そう、ですね。そろそろ帰って夕飯の支度や残っている家事も済ませたいですし」
「では、家まで送ろう」
「ええっ? 大丈夫ですよ、ここで解散でも」
「ふむ……デートというのは相手を家まで送っていくものだと学んだのだが」
「一体どこで学んだんです?」
「インターノットに書いてあった。柳と初めてデートをするのだ、予習は欠かせないだろう」
「………」
柳は目の前の狐耳が興奮したようにぴこぴこと動くのを見てため息を吐いた。随分とデートの勉強をしてきたらしいことがわかり、雅の頑張りを無下にしたくないと思えたのだ。
「では、わかりました。今日のところは家まで送ってもらうことにします」
「ああ、そうさせてくれ」
そう言うと雅は嬉しそうな顔で残りのパフェを食べ進めていったのだった。
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