「あーあ、なんてこった」
人一倍大きなため息を吐き、
腰に手を当て頭を抱え、
眉間に皺を寄せる。
浅羽悠真は、とても具合が悪そうな人間を装うようにして壁にもたれた。
「どうしたの、ハルマサ!」
蒼角が訊く。
自分のデスクに座る星見雅も、少しばかり気にしたように耳をぴくりとさせていた。
「いやー、ちょっとふらっとしちゃって。しかもいつも常備してたお薬がね、なんと、足りなくなりそうなんだよ! これは今すぐにでも薬局へ買いに行かなきゃあならないよねぇ……このこと副課長に言ってからじゃないと、外出は厳しいかな? いやでも、副課長は今さっき一課に呼ばれて出ていったばっかりだし、なかなか帰ってこれないよねぇ……あー、今すぐにでも、早々に、薬局へ向かわないと僕はそのうち倒れてしまうかもしれないな~あ~?」
ちらり。
悠真の視線は六課の課長である雅へと向く。
彼女は気づいたように悠真と視線を合わせる。
「薬が必要ならば、買いに行け。何、柳が戻ってくるまでに席につく修行だと思えば良い」
「そーですよねぇ~? 願わくば、副課長があと二、三、四から五時間は帰ってこないことを祈るところかな~なんて」
ハハッと軽く笑い、悠真は財布片手に出かける支度をする。
「じゃ、僕いってきま──」
が、
それを制するかのように蒼角が彼の前に立ちはだかった。
「ハルマサ、具合が悪いなら寝てなきゃだよ! お薬なら蒼角が買ってきてあげる! 何買って来たらいい? ちゃんとメモしていくよ! あっ、でもお金は先にもらってもいいかなぁ……蒼角のお財布全然お金入ってないや……」
自分の財布の中身を確認しながらしょんぼりとしている蒼角に、悠真は一瞬動きを止める。
「いやー、蒼角ちゃん。僕のお薬たくさん種類があって複雑だからさぁ、僕が買いに行かないと」
「それじゃあ蒼角、一緒についてくよ! ハルマサが途中で倒れちゃったりしたら心配だもん! ね、いいでしょボス!!」
蒼角が懇願するように言うと、雅は蒼角と悠真を見比べ、「ふむ……」と呟いた。
「二人とも、早く帰ってくるように努めろ」
「わかってるよボス! ナギねえに怒られない為にも、ハルマサのお薬買ったらびゅーんって急いで帰ってくるから!」
蒼角がそう言うと雅はこくんと頷き、自分の仕事へと戻った。悠真はというと、少々残念そうに肩を落としたが、気持ちを切り替えたのか腕を組み「それじゃ、僕が倒れないように見張っててね蒼角ちゃん」と六課を後にした。
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