#3 猫とビデオ - 1/6

 六分街にあるビデオ屋の店内は、少しばかり人で賑わっている。そんな中、一番奥のスペースで陳列されているビデオと睨めっこをしている少女が一人。

「──うーん、こっちにしよっかな。でもさっきのも面白そうだったし……あ、こっちはパッケージ裏にいっぱいお菓子を食べてるシーンがある! うう~どれにしよう~……」

 一人唸り声を上げ悩む蒼角。そんな彼女の来店にようやく気が付いたのか、このビデオ店の店長であるリンが近寄ってきた。

「いらっしゃい、蒼角。何を探してるの?」

「あ、プロキシ!」

「しーっ! もう蒼角ってば、ここでは私は店長!」

「あ、そうだった! えっと、店長!」

「それで? 何をお探しですか、お客様」

 ふふっと笑いながらリンが訊くと、蒼角は腕を組んで眉をぎゅっと寄せた。

「あのねぇ、今日はお休みだから何か面白いビデオはないかなーって探しに来たの。あ、いつもお休みの時はナギねえと一緒にお出かけしたりビデオ見たりいろんなことしてるんだけど、でも今日はナギねえはお休みじゃなくってだから蒼角は一人でおうちにいなきゃいけなくてー……」

「えーっと……ビデオを探しに来たんだよね? どんなのが見たいの?」

「うーんと、えーっとねぇ……こないだはエリーガイドを見たから、今日は違うのにしようかなぁって……でも迷ってるの。このボンプがいっぱい出てくるっていうやつも気になるし、こっちのスナイパー? が主人公のもかっこよくて楽しそうだし、あとはこのエイリアンが出てくるっていうのも怖そうで面白そう!」

「そっかそっか、たくさん悩んでくれて嬉しいな~。どれも面白い作品だから、私としては全部借りてって! って言いたいくらいなんだけど……」

 リンも同じく悩むようにして腕を組む。

 蒼角はと言うと、少し恥ずかしそうにもじもじとし始めた。

「えっとね、ここでビデオを借りたら、お菓子を買って帰りたいの。だから借りるビデオは一本にしようって思ってて……」

「なるほど、そういうこと! ビデオ鑑賞にお菓子は絶対必須だもんね~。特に蒼角は!」

「ねえねえ店長~、蒼角どれを選んだらいいかな!?」

「そうだねー、それじゃあ……」


 その時、カウンターの方から「あれ? いらっしゃい」とアキラの声が聞こえた。来店者にわざわざ声をかけるということは知り合いだろうかとリンは入り口の方へと目を向けた。


「……あ、悠真!」

 リンが呼ぶと、カウンター横に立つ悠真が振り向いた。

「や、来ちゃった。なんか面白いビデオ入荷してる?」

 そこまで言った後で、悠真はリンの隣に立つ同僚に気が付いた。

「あれぇ? 蒼角ちゃん。ここで会うなんて珍しいね」

「ハルマサもビデオ借りに来たの?」

「休日のお供になんかいいのないかなーと思ってね~」

 そう言って蒼角の近くの棚からひょいとビデオを手に取る。

「ディメンショナル・スナイパーでも見てたの? これ面白いよ~。そんなの現実でありっこないってことがいっぱい出てきてさ~。二千メートル離れたホロウの中心にいるエーテリアスに向けて狙撃する、とかさぁ。あ、でもウチの課長ならそれに近しいことやりかねないけど」

「そんなにかっこいいシーンがあるの!? すごいすごい! でも二千メートルってどのくらい離れてるんだろ」

「め~っちゃくちゃ離れてるんだよ。め~~っちゃくちゃ」

「へぇー! じゃあじゃあこっちは!?」

「え、ザ・カールズ? それはー……」


 話し始めた悠真と蒼角を置いて、リンはそっとその場を離れてカウンターにいる兄の元へと近寄っていく。

「──蒼角が借りるビデオで迷ってたみたいなんだけどー、私はもういらないかも」

 リンが少しばかり残念そうに言うと、アキラは肩をすくめた。

「助けを求められたらいけばいいさ」

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