その後の兄妹 #2『暑い夏の日には』 - 1/3

 夏の六分街。
 燦燦とした日光に照らされ道行く人々は汗を流している。
 ひとたび建物の中に入ればひんやりとした空調の恩恵を受けることにはなるのだが、
 ただここ、
 仲の良い兄妹が営むビデオ屋は今日はそうではないようで──

「あーづーいー!」

 店内に客がいないからか妹店長は店内のベンチの上に寝そべりながら声を上げている。その様子を見た兄店長がため息を吐いた。

「リン、“暑い”はもうそれで20回目になるよ」
「だって暑いんだもん~! 大体こんなに暑い日にエアコンが効かなくなるとかありえないよね!?」

 そう言ってリンは薄いTシャツの胸元を引っ張ってパタパタと風を送っている。暑さに耐える為薄着をしているようだが、そうしていると襟ぐりから下着が見えてしまう。それに気づきアキラは困ったように眉を下げた。

「うーん……点検を怠った僕らが悪いかな」
「あーもー、修理だって明後日まで来てくれないって言うし~。もう耐えらんないよ~」
「そうは言うけれどそのままダラダラしているわけにもいかな──いらっしゃいませ」

 突如入ってきた客にアキラは営業スマイルを浮かべ、リンは慌てて服装を整えて立ち上がった。
 ビデオ屋の玄関には『本日空調故障中!』と書かれた紙が大々的に貼られていて、中へ入ってきた客は皆「ああ……」と残念そうな表情を浮かべる。誰もが涼しさを求めているのだ。その為足を踏み入れた客たちは早々にビデオを選ぶと足早に店舗を出て行ってしまう。店長二人としてはもう少し長く見てもらってより多くのビデオを借りてもらえたらと思うのだが、こればかりは仕方ない。

「こんなに暑いんじゃ何にもしたくないよ~」

 客が帰ったあとでカウンターの下に隠れるようにしゃがみこんでしまったリンを見て、アキラは困ったように唸った。

「うーん……こればっかりはどうしようもないか。リン、今日は早閉めにしよう」
「ほんと!?」
「ああ、来てくれるお客さんにもこの暑さじゃ申し訳ないしね」
「やったー! じゃあじゃあ、どっかお店入って涼んでこよ?」
「まあ少しくらいなら……ああでも、まずは事務作業を終えてからだよ」
「ええ~! お兄ちゃんのケチ~!」

 ぶつくさと文句を言いながらもリンが作業に入る様子を見て、アキラは小さく笑みを浮かべる。
 ビデオ屋がいつもより早くCLOSEの札をドアに下げたのは、夕方近くなってからのことだった──。

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