「あのね、蒼角にコーハイができたんだよ!」
昼休憩から戻ってくるなり六課の入り口で蒼角は嬉しそうにそう言った。月城柳は手に持っていた書類を置き、くるりと椅子を回転させた。
「後輩? 確かにH.A.N.D.には現在たくさんの新人がいますが……六課には新人の配属は決まっていませんよ」
「そうだけどそうじゃなくてぇ~……H.A.N.D.の新人さんがね、蒼角のことすっごく憧れてるって! これからいろんなこと教えてほしいから連絡先をおしえてくださいセンパイって! 蒼角もセンパイなんだぁー、うれしいな~!」
蒼角はそれはもう本当に嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ね、目を輝かせた。
「それで、その後輩さんとは連絡先を交換したんですか?」
「ううんまだ! それがね、そのコーハイには食堂で会ったんだけど、蒼角おさいふだけ持ってご飯食べにいっちゃったから……また今度ねって! バイバイしたよ!」
「そうですか……どこの課に配属された方でしょう。ひとまず連絡先は渡さないでいいと思いますよ」
「どうして?」
蒼角はきょとんとした顔で柳を見つめる。
柳は少し複雑そうな顔をして目を細めた。
「うーん……同じ課所属の仲間や、あとはお友達でない限りは連絡先というものは交換しない方が賢明です。相手がどんな方かも詳しくわかりませんから」
「えっとね、背は蒼角より大きくてね、髪も蒼角より短くってね、おめめはこーんな感じで細くてね、あとはあとはー……」
「見た目の話じゃありませんよ。とにかく、もしその方を見かけたら教えてくださいね」
「はぁーい」
そんな二人の会話を聞いていた悠真はデスクからひょっこりと顔を覗かせると、にやりと笑った。
「蒼角ちゃん、ほんとに先輩になれるのかな~?」
「えっ、な、なれるよ! 蒼角もうたーくさんここでお仕事したもん!」
「ほんとにぃ~?」
「ほんとだもん! だから、ちゃんとセンパイとして、お仕事おしえられる……ハズ……」
段々言葉尻が小さくなっていき、蒼角は不安そうに人差し指を合わせた。
「浅羽隊員、蒼角は蒼角なりに仕事をしてきていますよ。それよりも浅羽隊員はどうなんですか? 別の課に任された後輩指導の件」
「いやいや、だからなんで僕が……」
「もちろん人手不足の為、お願いしたいと言われていましたよね」
「……あー、いやそのー」
「よろしくお願いしますね。あら、そろそろその後輩さんたちとの打ち合わせの時間じゃないでしょうか?」
「あーはいはいはいはい。ったく、どうせ指導員は僕だけじゃないんだから行かなくても……」
「浅羽隊員?」
「わーかーりーまーしーたーって! 行ってきます!」
柳の気迫に押されるかのように、悠真は慌てて部屋を出ていった。
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