「うう……おねえちゃん、ぼく一人ぼっちやだよぉ……うわあああああん!!」
「は、はわわわ、だだだだいじょぶ、だいじょーぶだからね! わーん治安官さーん!!」
──混雑する街中。
通り過ぎ行く人は皆どこか忙しない。
息つく暇もなく、
そこに紛れた迷子のことなど誰も気に掛ける様子はない。
蒼角が迷子の男の子に出会ったのは他の課との同行任務後のことであった。
早朝ホロウでの任務を終え、H.A.N.D.までの帰り道。蒼角は堪え切れない空腹を何とかする為、途中でお昼ごはんを買うことを許してもらった。そしてお店から出てくるなりたまらず大きなカツサンドを頬張っている時だ。
小さな男の子が辺りをキョロキョロとしながら横断歩道を拙い足取りで歩いている。
「あれぇ、あんなにちっちゃい子がひとり? 変だよねぇ」
蒼角は青信号が点滅し始めている横断歩道へと駆けていき、男の子の背中をトントンと叩いた。
「ねえねえ! 赤になっちゃうよ! こっちおいで!」
「ふぇ……? おねえちゃん、だれ?」
「えーっとねぇ……うーん、とにかく渡っちゃお!」
蒼角に急かされるようにして少年はタッタと小走りで横断歩道を抜ける。信号が変わった道路ではすぐ多くの車が走り抜けていった。
「きみ、お父さんやお母さんは?」
蒼角の問いかけに、不安そうな顔をしていた男の子の顔はみるみるうちに大粒の涙を溜めくしゃくしゃになっていく。
「う、うわあああああああ!!」
「えっ、え!? そ、蒼角なんか間違っちゃった!? どどどどうしよう……泣かないで! だいじょーぶ! ゆっくり話してみて!」
「ううっ、うっ、ぐすっ……えぐっ……」
「……うーん……あ、このサンドイッチ、食べる!?」
「さんどいっち……?」
蒼角は今しがた食べていたカツサンドではなく、袋に入っていたもう一つのサンドイッチ──ハムたまごサンドを取り出した。
「えっとね、これ、蒼角のお昼なんだけどー……きみにあげる! これ食べて元気出して?」
「……ぐすん」
男の子は涙をぽろぽろとこぼしながらもサンドイッチを受け取る。開けるのに少々手こずっている様子なのを見かねて、蒼角は横から外装を剥がしてあげた。
「……んむ」
「おいし?」
「……もぐ、んぐ……ん、おいし」
「本当!? うわーそっかそっかおいしんだー! 蒼角も食べたかった──じゃなかった。えと、今度買って食べてみよ!」
「でも、ママが作ってくれるやつの方がもっとおいしーよ?」
「え!? きみのママが作るサンドイッチおいしーの!? わー食べてみたい!」
「えっとね、ママが作るサンドイッチはね、くだものがいっぱいはいってるんだ。イチゴとかバナナとかキウイとか……クリームもたくさん!」
「フルーツサンドってこと!? んーっ蒼角も食べたい! はあ~想像したらよだれがいっぱい出てきちゃ……じゅるるる」
零れ落ちそうになったよだれを啜ると、蒼角は背後の気配に気が付いた。今まで一緒に行動していた他の課の執行官だ。
「蒼角さん、迷子ですか?」
「うん、そーみたい! この子のお父さんお母さん一緒に探してあげた方がいいかなぁ……」
「うーん、探すよりは治安局に任せる方が良いかと。ここからならルミナ分署が近いですし」
「そっか!」
蒼角は男の子の方へ向き直ると「ねえおうちは近いの?」と訊いた。男の子はたまごを口の端に付けたままぶんぶんと首を振る。
「えっとね、これから蒼角たちと治安官のおにーさんおねーさんのところに行ってママパパを探してもらお! いいかな?」
そう訊ねると、男の子は少し戸惑うようにした末こくりと頷いた。
「じゃ、蒼角おねーさんと一緒にしゅっぱーつ!」
蒼角は男の子の小さな手をそっと握り、車へと向かって行った。
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