「──最近、浅羽隊員が蒼角と一緒にいることが増えたような気がします」
お昼時、月城柳は星見雅と共に食堂で昼食を取っていた。
柳の注文したのはAランチ。
雅の注文したのはBランチ。
雅はここ一週間Bランチしか頼んでいない。
『Bランチを食べ続ける修行だ』
と言っていたけれども、今週のBランチにはメロンゼリーが付いているのが選定の理由であろうことは柳にもわかっていた。
「……む、今までは違ったのか?」
「違ったわけではないですけど……格段に増えていると思いますよ。外勤で一緒なのは当たり前にしても、休憩時間もよく浅羽隊員が蒼角に話しかけていますし、休日も時々会っているようです」
「休日……我々に隠れて組み手の修行でもしているのか」
「そんな、課長じゃないんですから。蒼角が言っていたのは……なんでも、新エリー都グルメ食べ歩きをしたり、公園で遊んだりしているんだとか。蒼角はたくさん遊んでもらえて嬉しいようですけどね」
「公園で──どちらがより高い砂の城を作れるか、を競っているということか」
「課長、混ざりたいんですか?」
「うむ、やってみたい」
「課長……」
はあ、とため息をつき頭を抱える柳。雅はパクパクとランチを食べ進め、早くゼリーにありつきたいという様子でいる。
「何にせよ、仲が良いことは嬉しいのですが」
「ほう、だがその顔は嬉しそうではないな」
「……うーん、なんというか、やっぱり可愛い娘を取られてしまったような悔しさがありますね」
「なるほど。大事な娘に恋人ができた時、母親とはそういった反応をするのか」
「もう、私は母ではありませんよ。……というか、それだと浅羽隊員が蒼角の恋人ということになってしまうじゃないですか!」
「む、違うのか」
「ちが……う、というよりは、その……心配の方が大きいです」
「何故だ、悠真のどこに不満が?」
「不満だらけですよ、課長」
先ほどよりも、大きなため息をつく。頭痛でもするように眉間に皺を寄せる柳に、雅は首を傾げた。
「……そうか、悠真は恋人としては失格か」
「そうは言っていません。ただ、やっぱり蒼角は……まだ子どもですし」
「子どもというものは、大人が思うよりも成長が早いものだ」
「それは! ……鬼族と人間を同じく考えてはいけませんよ」
「そうだろうか? 年齢、見た目、確かに鬼族と人間には違いがありすぎる。だがその実、心の成長については緩やかだと思っていたものが、ある日急に変化が訪れることが両者ともあるだろう。そうなれば大人は、いや子どもも、急激な変わりように戸惑うものだ」
「……そ、蒼角がある日急に大人になってしまうって言うんですか!?」
「なんだ、柳。怖いのか」
「えっ、いや、怖いというか……ああ、私、きっと寂しいんですね」
「ふむ。これが親心というものか」
雅はそこまで言って、メロンゼリーに向き合うと微笑みを携えてスプーンをオレンジ色の表面に差し入れた。一口食べ、満足そうに目を瞑る。
「──でも課長、蒼角の成長は今は置いておいて。浅羽隊員がどんな思いで蒼角に接しているかはまた別問題ですよ」
「それは、蒼角の身を案じているということか?」
「もちろんですよ! 嫌がる蒼角に良からぬことでもしようものなら私は……!」
「……容易く抵抗できる程には蒼角は強いと私は思うが」
「もちろん蒼角は強いです! でもそれとこれとは別の話です!」
「ふむ……親とは難儀だな。私もいつかわかる時がやってくるだろうか」
「雅、話を逸らさないでください!」
食堂での一幕は、周囲の者たちにも筒抜けであり奇異の視線を浴びていた。そして他の課からは「今日も六課は仲が良さそうだ」と噂されるのである。
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