#1 お兄ちゃん - 2/3

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 カラフルでキラキラとした小さな小瓶を見つめては口をすぼめて唸ってしまう。高い。わかっちゃいたけどお高い。いつもなら即決で買うネイルだけれど、今日は他にも買いたいものがある。どうしようか。

「悩ましいなぁ~。こっちの色も綺麗だし、でもこっちも使い勝手が良さそうで……あーもう困る~」
「何かお困りですか?」

 店員さんに声をかけられた! と思って振り返るとそこに立っていたのは少しイタズラっぽく笑う朱鳶さん。私服なところを見ると今日は非番らしい。

「朱鳶さん! 朱鳶さんもお買い物?」
「ええ。といってももう帰るところなの。リンちゃんは?」
「私もお買い物!」
「そう……今日は一緒じゃないのね。アキラくん」

 そう言ってきょろきょろと見回す。ここにはいない人物を探している。

 アキラくん。

「えへへ、お兄ちゃんはお店で留守番でーす」
「ふふっ、そうなのね。それじゃまたね、リンちゃん」
「はーい!」

 ひらひらひら。手を振る。
 ネイルをちらりと見て、その場を離れた。
 今日はいいや。

 お洋服を見て、
 ベンチに座って、
 ティーミルクを飲んで、
 ぼんやりと空を見上げる。
 もう暗い。街灯のせいで空の星なんて見えやしない。
 多分、六分街に戻って<Random Play>の屋上から見上げた方が綺麗なはずだ。

「なーんか、楽しくなくなっちゃった」

 おみやげを約束していた癖に、今自分が飲んでいるティーミルク以外は何も持っていない。
 お兄ちゃんはなんて言うだろうか?
 少し考えたけれど、特に何も言わないだろう。
『おかえり』
 それだけ。

 ちぅ、と音を立ててストローを吸う。
 星が見えない空を見つめ、空になったティーミルクのカップをカラカラと振った。

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