「店長ー! 俺とスネークデュエルで対戦しようぜー!!」
バターン! と開かれたビデオ屋の扉に驚いた店内数名の客と受付台に立つ18号とその横に立っていたアキラが、唐突な来訪者であるビリーを見た。ビリーは『きゅるん』という可愛らしい効果音が聞こえてきそうな両手を組んだポーズでこちらを見ている。
「――お客様、店内ではお静かにお願いします」
にこやかに注意するアキラから圧倒的殺意を感じ取った18号は、声も出せずにぶるると震えあがった。
――平日昼間のビデオ屋はそれほど混むことはないのだが、先日新作ビデオを入荷したことでそれを求め客足が伸びている。新しい会員カードの発行や、貸出手続きで少しばかり忙しくなったが、午後三時を過ぎるとようやくそれも落ち着いた。
ビリーはそんな中で玄関横のソファに座りながら待ち、ようやく出かける支度を始めたアキラに目を輝かせて立ち上がった。
「じゃ、行こうぜ店長!」
「ちょっと待って、今リンに声をかけてくるから」
「え? もう一人の店長? なんだ出かけてたんじゃなかったのか」
首を傾げるビリーを置いて、アキラは階段を上がり二階のリンの部屋へと向かった。妹の部屋の扉は固く閉ざされている。コンコン、とノックをして「リン、ちょっとビリーと出かけてくるよ。夕飯までには帰ってくると思う」と声をかける。少しして聞こえてきたのは「うーん」とぼやけた生返事。少し心配ながらも、それ以上何も言わずにアキラは部屋を後にし階段を下りて行った。
「……なあ、大丈夫なのか? 具合悪くて寝てんのか?」
一階で待っていたビリーだが、高性能集音機能によってアキラとリンのやりとりは聞こえていたようだ。
「大丈夫だと思う。少し前から風邪を引いてるんだ。熱は下がってだいぶ楽になったとは言ってたんだけど……まだ本調子じゃないみたいで三日もあんな様子さ」
「三日ぁ!? 部屋ん中にずっといておかしくなんねーのか!? 店長はちゃんとメンテナンスしてやってるのか?」
「ご飯を作ったりはしているよ。でもあまり僕に部屋に入ってきてほしくないみたいでね、布団を被ったままのリンしかしばらく見ていないよ」
はあ、と大きなため息を吐くアキラを見つめ、ビリーは唸り声を上げて腕を組んだ。
「なんか、困ってんだな。店長」
「ああ、うん。リンがどうやら風邪で具合悪いだけじゃなくて、何か悩んでるようにも見えてね。それを、何とかしてやれないのがもどかしいというか……」
「なるほどなー……」
そんな風に会話をしながらビデオ屋を出ると、二人はゲームセンター<GOD FINGER>に足を向けた。隣を歩くアキラの表情はいつも通りだが、何かが違うようにもビリーには思え、声をかけようかと思案しているうちに目的の地に辿り着いてしまった。
「……なあ店長。店長も、もう一人の店長も、どっちも悩んでて大変なのかもだけどさ、とにかく今はパーッと遊ぼうぜ!」
にっこりと笑いかけたビリーに、アキラも遅れて笑顔を返す。うん、と頷くと二人はスネークデュエルの筐体にコインを入れた。
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