#10 不明瞭な気づき - 2/7

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 午後の昼下がり。
 ルミナスクエアのリチャードティーミルクは休憩時間の会社員たちによって列を成しているが、その列に加わることができずにいるリンは苦虫を噛み潰した顔をしていた。

「ぐぬぬぬ、飲みたい……でもまずは治安局……」
「――ギリギリと歯軋りをしながらリチャードティーミルクを睨みつける様、それはさながら悪鬼羅刹あっきらせつ のごとし」
「へっ!?」

 すぐ隣を見れば、リンを覗き込むようにして立つ青衣がそこにいた。

「どうやら店長どのの恐ろしい面を我は垣間見てしまったようだな? はたまた、更なる意外な面があるやもしれぬ。どれ、ぬしの顔をよく見せてみよ」
「なっ……なーに言ってるの青衣! 意外な面なんてないない!」
「ほう? いささ か悪戯が過ぎたようであるな。して、今日は如何なる用で治安局まで来られたのか? 我は暇を持て余しているゆえ、案内をしてやっても……」
「暇なんて持て余していませんよ、先輩」

 後ろから声が聞こえてきて、リンはぱっと振り向くと顔色を明るくさせた。

「朱鳶さん! こんにちは!」
「こんにちは、リンちゃん。もう、先輩が怠けるから私ばかり事務仕事が増えるんですよ!」
「怠けてなどおらぬ。今もこうして店長どのに“訪問サービス”をしておるではないか」
「訪問サービスはもう先輩の管轄ではありませんよ。ほら、言い訳はいいですから行きますよ!」
「ああ、朱鳶、無理にそう我を引きずらずとも……ああ~」

 駄々を捏ねる子どもを連れ帰るように朱鳶は青衣の両脇を抱えるとずるずると治安局の中へと引きずって行った。あんな風に乱暴に扱われても玉偶というのは丈夫なんだな、とリンは思わず感心してしまった。

「はっ、違う違う。さっさと書類出してこないと! っていうか元はと言えばお兄ちゃんがこないだ治安局に行った時にまとめてやってきてくれればぁ~……」

 げんなりとした表情のリンもまた、治安局へと吸い込まれて行くのだった。

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