「――ご注文の品はこれで全部ですか~?」
お昼時、快活な声がホビーショップ<BOX GALAXY>の店先で響く。アキラはスージーから商品の入った箱を受け取ると、確認して頷いた。
「ああ、全部あるよ。ありがとう」
「はーい、これからもごひいきに~♪」
「社長によろしくね」
「ありがとうございましたー!」
スージーに手を振ると、アキラは少し重たい箱を一度抱え直して通りを歩き始めた。購入した商品はいつも通りただのおもちゃではない、が、売ってくれたスージーはもちろんこのことは知らない。
「……目を輝かせてたけど、あれこれ聞かれなくて済んだな」
ほっとしたように胸を撫で下ろす。しかし、雑貨店141の前を通る時に売り子のボンプたちが何やら荷物を運び出していて、ぶつかりそうになった。慌てて身を翻す。
「ンナッ!」
「ンナナナ~」
「ンナンナ」
彼らの仕事ぶりを見て、「僕ももう少しきびきび動かないと」とアキラは苦笑いしてしまった。
ゲームセンターはこの週末イベントがあるのか、ポスターが貼られている。
「僕も時間があれば参加したいんだけど」
気になってポスターの詳細を見れば、<二人一組にて参加可能>とあった。
「ビリーを誘えばいいか。仕事が入ってないといいな……っと、その前にリンに行ってもいいか聞かないとか?」
お兄ちゃんばっかりずるい! というリンの反応が目に見えるようでアキラは何と言おうか考えあぐねた。
滝湯谷の前を通ればカウンターはお客さんでいっぱいだ。もうそんな時間か、今日の昼は何にしようかとアキラは考え、「ラーメンは却下されるだろうな」と他の案をひねり出そうとした。
そんなところで、ようやくビデオ屋に辿り着く。
荷物を持ったままで開けにくい扉をどうにか開け、入れば店番をしていたリンに「おかえり!」と声をかけられた。
「ああ、ただいま。――よい、しょっと」
お客さんのいない様子を見たアキラは荷物を入ってすぐのベンチに置いた。
「イタタタ……」
重いものを持ち運んだからか、少し腰を摩って捻る。
「お兄ちゃ~ん、最近運動不足じゃない?」
「いやいや、今まさに運動してきたところじゃないか」
「それのどこが運動だっていうの!? <BOX GALAXY>まで往復してきただけだよ!?」
「いや、まあ確かに運動と言う程の距離ではないけど……でも昨日も出かけたし、不足していないと思うけどな」
「うそ! だって昨日は車で出かけたじゃん! 全然体動かしてなくない~?」
そこまで妹に言われて、アキラは「降参です」と言うように肩をすくめた。
「あ! いいこと思いついちゃった」
「何?」
「運動不足なお兄ちゃんにとっておきのお願いがあるの。私がいつも買ってる楽器店までおつかいにいってきてくれない?」
「うーん。我が妹ながら、悪い顔が良く似合うね」
「悪い顔って何~!?」
怒る妹を背に、アキラはもう一度荷物を持ち上げると今度は奥の従業員用の部屋へと運び込んだ。
「ねー、いいでしょー。こないだギターの弦が切れちゃって困ってたところだったの!」
リンが追いかけるようにアキラの背に向かって話す。アキラは箱をそのままにリンの方へと向き直った。そして腰をぐるりと回して最後に伸びをする。
「お兄ちゃんがそこまで行ってきてくれれば、きっと運動不足解消になると思うな~。私はしっかり店番して待ってるから、ね♪」
「リンのよく行く楽器店って、結構遠いじゃないか。車で行ってもいいだろう?」
「だーめ! しっかり歩いて地下鉄で行ってきて! どうせ1時間もかかんないんだから!」
「はあ……仕方ないな。じゃあまず栄養補給をしてからね」
「お昼ならサンドイッチあるよ! 朝作ったんだ~」
「用意周到で恐れ入るよ。リンが作った美味しいサンドイッチがあるならラーメンを食べる必要もなさそうだ」
「ラーメンって……節約ってこないだ言ったでしょ~!? あ、お兄ちゃんが食べてる間に買い物のメモしてくる!」
そう言うとリンはバタバタと階段を上っていった。それと同時に客が一人入ってくる。アキラはサンドイッチにありつくのを先延ばしにし、「いらっしゃいませ」とカウンターに立ったのだった。
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