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用事を終え車から降りると、段ボール箱を片手に駐車場側から店内へと入った。店番中の18号が「ンナ!」と僕に向かって声を上げた。
「ただいま、リンはまだ戻ってないのかい?」
「ンナ~、ンナナナ」
「そうか……僕より先に出たから、もう帰って来ていてもおかしくないのに」
時間を確認する。治安局の受付はもうとっくに閉まっている頃だろう。とすれば今は遊び歩いているということか。
「連絡は入ってないけれど……まあ、そのうち帰ってくるよな」
段ボール箱をカウンター横に置き、トラビスさんに泣きつかれて仕入れたビデオを確認する。段ボール箱の中全てがそうというわけではないけれど……急な出費にため息が出た。
「確かにあまり人気の作品ではないからな……あとで僕も観てみよう」
その時、ビデオ屋の扉が開いて数名の女子高生が入店してきた。その中に見知った顔がいることに気づき、目が合うと「やぁ、いらっしゃいませ」と声をかけた。
「あれ、いたんだ」
少し意外そうにそう言ったエレンに、僕は首を傾げる。エレンは一言二言友達に何か言うと、こちらへ近づいてきた。
「さっきカリンから連絡があって、リンがうちの事務所に来てるって」
「えっ?」
「夕飯も一緒に食べていくかもしれないって言ってたけど……聞いてない?」
「いや……聞いてないな」
「あ、そう。てっきりあんたもそっちにいるんだと思ってたんだけど」
「エレンもみんなと一緒に夕飯を食べるのかい?」
「ううんー、今日はあの子らとご飯行くから」
あの子ら、と言って見たのはエレンが一緒に入ってきた女子高生たちだ。そうか、と相槌を打つと僕はどうしたものかと腕を組んだ。
「アキラも行けばいいじゃん」
「えっ?」
エレンの提案に僕は驚いた。僕が驚いたことに、エレンは驚いたみたいだけれど……すぐにいつもの少しむっとしたような顔に戻って僕と同じように腕を組む。
「どうせ一人増えたくらいじゃ困んないって。行って一緒にご飯食べてけばいいじゃん」
「ええーと……いいんだろうか」
「いいって、連絡してみなよ」
エレンはそう言うと、友達の輪へと戻ってしまった。僕はしばしの間考え――結局、ライカンさんへノックノックで連絡を取ることにした。
「帰りは遊んでくるって言ってたけれど……それがなんでヴィクトリア家政のところへ?」
疑問を胸に、再度出かける準備を始めた。
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