***
――後日、開店前のビデオ屋に扉を叩く音が響いた。
「あ、トラビスさん」
扉を開けたリンと目が合うと、トラビスは苦笑いをして「よう」と言った。
「こないだのビデオ持ってきたの~?」
「そう、これな」
「中身確認するね? ……んー、はい! 確かに受け取りました!」
「おう。……あれ? 兄貴はどうした?」
「お兄ちゃん? いるけどー……また変なお店に連れてこうとかしないよね~!?」
「しないしない!」
「……あははっ! 冗談だよ~。お兄ちゃーん!」
リンが呼ぶと、二階から「はーい」とアキラの声が響いた。少ししてアキラが階下まで降りてくる。トラビスは「よう」と笑いかけた。
「やあトラビスさん。ビデオを持ってきたの? リン、確認したかい?」
「したよ~。あっちで作業してるね!」
そう言うと新しいビデオを持ってリンは奥の部屋へと入っていった。アキラがレジ前まで来ると、トラビスはさっと近づいてきて小声で話しかける。
「なあ、妹ちゃん怒ってないか?」
「え? どうしてだい?」
「いやーこないだ余計なこと言っちまったかな~と思って」
「ああ、大丈夫だよ。リンも子どもじゃないからね」
「そりゃそれはわかってるけどよ……」
「それに、トラビスさんが言ったことは間違ってるわけじゃないしね」
アキラはそう言うと口に笑みを浮かべる。
トラビスは「はは……」と愛想笑いを浮かべたが、すぐに疑問を抱いて眉をひそめた。
「それって、あれか? 妹ちゃんのせいで彼女ができない、って、やつ?」
トラビスの問いかけに、アキラは答えなかった。
「さあ、これからお店を開けるから。また連絡するよ」
「あ、ああ……待ってるぜ。あっ、次に入ってくるリスト今度そっちに送るからな!」
「よろしく頼むよ、トラビスさん」
にこやかなアキラの笑みに送られ、トラビスは「それじゃあな!」とビデオ屋を出ていった。
「……あいつらって、本当にただの兄妹、なんだよな?」
浮かんできた疑問を打ち消すように、トラビスは乾いた笑いを漏らしてその場を後にした。
<了>
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます