その後の兄妹 #2『暑い夏の日には』 - 2/3


   ***

「お兄ちゃん! アイス何にする~?」
「そうだな……リンは何が食べたい?」
「えーっとねぇ、このミルクバーのいちごとメロンで迷っててー……」

 ビデオ屋の閉店後、涼む為にいくつかお店を回った二人は雑貨店141に立ち寄っていた。そこでさらに体を冷やそうとアイスを買おうと冷凍ケースの中を眺めているのである。リンはどうやら欲しいものが決まったのかケースの蓋をスライドさせると中からお目当てのアイスを二つ取った。

「お兄ちゃん、ほんとに私が食べたいのでいいの?」
「ああ。僕と半分こすればどっちも楽しめるだろう?」
「えへへー、お兄ちゃんってば優し♪ だーいすき♪」
「ほら、会計しておいで」
「はーい!」

 リンは嬉しそうにぱたぱたと会計まで駆け寄っていくと、すぐさまディニーを払ってオツリたちに手を振った。

「えっへへー、もう開けちゃお♪」
「おっと……ここで開けるのかい? 家まですぐじゃないか」
「だって早く食べたいんだもーん」

 リンはそう言うといちごミルクバーのアイスの袋をバリッと音を立てて開ける。出てきた平たい棒を掴むと中から甘い香りのするアイスを取り出した。

「あむっ……ん~! 冷たくておいし~!」
「それはよかったね」
「ほらほらお兄ちゃんも!」
「あー……ん、うん、つめひゃい」
「あははっ! 帰ったらメロン味も食べさせてね~」
「わかってるとも」

 齧ったアイスが口の中でじゅわりと溶けるのを感じながら、二人はゆっくりと歩く。本来なら早く家に着きたいところだが、今日に限っては急いで帰ったところで部屋の中も暑い。ならば無駄に体力を消耗しないのが最善というわけだが──

「んっ、わわっ、溶けてきちゃった……あむっ──んんっ!」

 日が落ちても尚暑い夜道で、溶けかけたアイスを口で受け止めようとリンは奮闘したものの、アイスはリンの口の端に落ち、溶けたアイスはだらりと顎を伝って喉元へ──そして鎖骨のくぼみまで落ちていった。

「ひゃああっ、べたべたになっちゃったよ~。えーん、おにいちゃ~ん!」
「リン、そのままだと服まで汚れてしまうよ」
「すぐ溶けちゃうアイスが悪いんだよ~!」
「はいはいわかったから、早く中に入って」

 そう言ってアキラはビデオ屋のドアを開け、リンを先に中へと入れる。中では我が家のボンプたちがスリープモードで大人しく座っていた。この暑さの中で動かしておくと故障しかねない為、今日明日は彼らにはお休みしてもらおうという考えだ。同様にFairyも本人の希望で大人しくはしているようだが。

 人間も省電力で動けるようなモードがあればいいのに、とアキラは思いながらリンと二人で二階の自室へと向かった。

「あーもーべたべたで気持ち悪いよぉ~。アイスは美味しいのに~」

 そう言いながらリンが自分の部屋のドアを開ける。それを見ていたアキラが、リンの肩を優しく掴んだ。

「っ、ん? お兄ちゃん?」

 アキラの視線がリンの胸元へと刺さる。
 溶けて垂れたアイスは今や胸の谷間へと落ちていっている。

「あちゃー、私このままシャワー浴びてきちゃうね」
「いや、今服を脱いだら服がアイスで汚れてしまうよ」
「? うん、だから濡れタオルで拭いてー、それから……」
「タオルはいらないよ」
「ええ~? お兄ちゃんってば何言って──」

 可笑しそうに笑ったリンの身体を、アキラの両手ががっしりと掴む。
 急なことに驚いたリンが声を上げる間もなく、アキラの舌が、リンの谷間へと差し込まれた。

「んっ……お、にいちゃっ」

 いちごミルクの味がアキラの舌の上に広がる。
 そのまま鎖骨を丁寧に舐め、首筋に舌が這う。

「あっ、あ……」

 熱い舌がゆっくり登ってくる感覚に、リンはぶるりと体を震わせた。
 それから顎まで舌先がつつつ……と滑り、口の端を「ちゅっ」と吸い上げる。
 溶けたアイスが全て無くなるとアキラは顔を放してにっこりとリンに笑いかけた。

「……ほら、タオルはいらなかっただろう?」
「い……いらなかった、けど……」

 暑さのせいなのか、火照った顔でリンはアキラを見つめ返す。
 アキラはいつもと同じようにうっすらと笑みを浮かべたまま。
 その余裕な表情にリンはむっとした。

「でもまだ足りないよ!」
「え?」

 怒ったようなリンの言葉にアキラはきょとんとする。
 しかしそのすぐあとで、
 リンはアキラの服の裾をぎゅっと掴み──少し背伸びをして、くちづけた。

「……ここまでしておいて、キスしないなんてどう考えても足りないじゃん」
「ああ……それはきっとリンからしてくれるかなと思ったんだ」
「ええ~!? 何それ、お兄ちゃんの術中にハマったってこと!?」
「そうなるね」
「もー!!」

 さらに怒ったようにリンはいーっと歯を剥いて見せた。
 アキラはそれが可笑しかったのか、吹き出している。

「お兄ちゃんのバカ!」
「ごめんごめん、ほら、シャワーに行くんだろう?」
「………」

 むすっとしたままの妹と、くすくすと笑う兄。
 暑い室内のせいで、汗がたらりとこめかみを伝った。

「……私はシャワーの前にちょっと汗かいた方がいいかなーって、思うんだけど……お兄ちゃんはどう?」
「うーん、今たくさん汗をかくと脱水症状が起きかねな──」
「お に い ち ゃ ん ~ !?」
「あー……いや、少しくらいは大丈夫、だね」

 妹の圧に負けた兄は苦笑いをし、そのまま手を引かれ部屋の中へと吸い込まれていく。
 いつもはドアを閉めるが、今日は閉め切った部屋では暑すぎて頭がおかしくなりそうだった為……

 開け放たれた部屋からは

 張り付いた服を脱ぐ衣擦れの音と、
 焦ったように唇を合わせる水音が、

 二階廊下へ響き渡っていた──。

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