#3 「私と君で可愛い子どもを作ろうじゃないか!」 - 3/3


 ***

「おいおいもう帰んのか? 姉貴の寝かしつけはどうなったんだよ」
「うわやべっ、そうだった……!」

 修理を終えたビリーが玄関先へ向かう所を、リビングから慌てて走ってきたクレタに呼び止められた。そうだ、ビリーは今日グレースをベッドで寝かせる為に自宅で修理をすることになったのである。

「寝かしつけってなんのことだい?」

 グレースの問いかけにクレタは黙って頭を抱え、ビリーは両掌を合わせて謝罪のポーズをクレタに向けた。

「あー……その、修理担当さんよ。俺の修理は癒しになるんだよな? ほら、良い感じに眠くなったところで今日はしっかり休んだらどうだ? 休日なんだろ?」
「ええ? 休むわけないじゃないか。君の体を弄るのは私にとって癒しではあるけれど、それと同時に新たな発見との出会いでもあるんだよ! 今日も君の体は興味深かった。これを活かすべく今から実験室に戻って試したい事が山ほどあるんだよ! ああ~、全く時間がいくらあっても足りないね!」
「………」

 ビリーの修理はグレースにとって逆効果になってしまうかもしれない、とクレタは自分の決断を後悔した。だが、楽しそうにあれこれと話すグレースを横目にもうやめろと言えないのは――喜ぶ姉の顔が見れて嬉しいという感情がいくらか体の中にあるからである。

「……ま、姉貴が家に帰ってくる理由ができたのはいいことだ。悪いが、これからもウチまで来て修理されてやってくれないか?」
「俺は別にここまで来るくらいいいけどよぉ……」
「ありがとうな。それじゃ、気を付けて帰れよ」
「ああ。んじゃ、社長さん、修理担当のねーちゃん、世話になったな!」

 ニッと笑顔を見せてビリーは彼女たちの自宅を出ていった。パタン、と扉が閉じればグレースはくるりと体を反転させてすぐさま出かける支度を始めようとする。

「おい姉貴、ほんとに実験室に行くのかよ!」
「当たり前じゃないか。時間はあっという間に過ぎていくんだよ?」
「休日は体を休める為にあんだぞ、ったく……」
「……ふふっ、おチビちゃんには感謝してるよ」
「え?」
「彼の修理や分解してパーツを眺めることはとても気分転換になってるんだ。いつものように一人で実験室にこもってるだけじゃ、新しい発想に辿り着けなかったりするからね。だから、私の心配してくれてありがとう、おチビちゃん」
「……別に心配なんかしてねーよ、ばーか」

 照れ隠しか、クレタはグレースを追い越してリビングへと向かって行く。そして点いていたテレビを消すと、何やら出かける用意をし始めた。

「クレタも出かけるのかい?」
「あたしも気分転換しに行くんだよ。そんで、明日からまたしっかり仕事がんばらねーとな」
「うんうん、良い心がけだ! それじゃ、途中までお姉さんと一緒に行こうか」
「おー」

 支度を終えた二人は玄関の扉を開け、外に出る。
 鼻歌を歌いながら鍵をかけるグレースを、クレタは横から見上げた。グレースはそれに気づいて彼女に笑いかける。

「クレタのおかげで私は今日重大な目標を手に入れたんだよ」
「ほー、あたしのおかげか。そりゃ気分がいいな。で、重大な目標ってのはなんだよ?」
「ふふふ、それはね?
 これからも実験や研究に勤しんで、

 私はいつかビリーと可愛い子どもを作れるように励むってわけさ!」


「……姉貴、まーたわけわかんねーこと言ってんぞ」

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