短編『街灯の下で笑って』 - 1/4

「は? パーティ?」
「そう、パーティだ」

 ビリーが訊き返したことに対して、グレースも同じように言葉を繰り返した。

 ――今日は定期メンテナンスの日。
 グレースの家へと訪れたビリーは彼女の分解させて知的好奇心 を躱しつつ、メンテナンスの最終段階に入っている。
 あとは交換したパーツのテストをすれば完了だ。

「一昨日参加した学術会議で、知能機械の権威が主催するパーティに出るよう言われてね。小難しい挨拶も大してないただの立食パーティなんだ。非常に面倒で出来れば参加を断りたいわけだけど……今後私の研究発表時間を半分にするぞなんて脅されていてね? いやぁ確かにかなりの頻度で時間をオーバーしてしまう私に非があるんだろうけどさぁ」
「それで、そのパーティが俺になんの関係があるんだよ?」
「うん、私の恋人として一緒に出てくれないかい?」
「はい……?」

 ビリーはグレースの表情を再認識する為に を細めて見た。

「実は私の恋人がロストテクノロジーである火力制圧用高知能戦術素体だという話は学会中に広まっていてね。ついつい私が自慢したくて君の構造について語ってしまった為なんだけれども」
「勝手に俺の体のことベラベラ喋ってんじゃねーよ」
「仕方ないだろう? 私一人で考えるよりもやはり他の研究者の意見に耳を傾けた方が良い結果が出ることが時としてある。私としては悔しいけれども。それでだ、そのパーティに君も一緒に出てほしい」
「それってのはあれか? 俺を自慢したくてってことか?」
「そうだとも! 君を見せびらかして私の恋人はこんなにも素晴らしいフォルムで美しい構造をしていて更には将来的に全てのパーツを私が設計開発するんだと言ってやるのさ! あ、もちろん君と私で作る後継機可愛い子ども のこともね?」
「最後のは言わなくていいだろ別に……」
「何を言ってるんだ、言った方がいいに決まっているだろう。絶対に羨ましがられる」
「ほんとぉ……??」

 ビリーの訝し気な表情パターンに、グレースはにっこりと笑う。

「それに、一緒に行ってくれるなら次回の修理代もサービスしてあげるとも」
「そう言われちゃしゃーねぇな~。行ってやるよ!」

 機嫌を良くしたビリーにグレースは満足すると、今しがた交換を終えたばかりの足先の関節部分を持ち上げてよくよく眺めると「うん」と頷いて立ち上がった。

「それじゃ、立ち上がって確認して。その後はさっき交換した肩関節の確認を少し外に出てしようか」
「わかったぜ。……っと、それでそのパーティってやつはよぉ。いつもの格好で行っていいのかぁ? パーティってのには出たことが無いからわかんなくてよぉ」
「そうだね……君のボディを自慢することを考えれば何も着ないで連れていく方が私的には好都合だけれど……」
「全裸で行けって言うのぉ!? 頭おかしいんじゃねーの!?」
「いやいや、服なんかでその美しいアウトラインを隠す方がどうかしているね。……っとまあ、君の意見を尊重するならば、スーツを着てもらうのが妥当かな」
「スーツなんて俺持ってねぇよ。そんなんホロウに入るのにゃいらねーし」
「確かにそうだね。それなら私が用意してあげよう。君のサイズはどこもかしこも計測済みだ」
「その言い方セクハラにならない?」
「まあまあ、私もスーツを着るし……これが『お揃いコーデ』とか言うやつだね! 当日はデート気分でいてくれていいよ! 帰りにはジャンクパーツショップにでも寄ろうじゃないか。好きだろう? そういうお店」
「おお! それならいいぜ! でもいいのかぁ? ジャンク品なんて絶対使わせないって言ってたろ」
「それはそうだけれども、過去に製造されたパーツを眺めて今後の設計に生かすのも私の仕事さ」
「あ、買うんじゃないのぉ……?」

 しょんぼりとしたビリーを目の端に置き、グレースは台の上に置いていたビリーのメンテナンスチェック項目に次回の点検項目を書き加えた。

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