「な、ぞ、な、ぞ! パンはパンでも、食べられないパンはな~んだ!」
蒼角ちゃんの楽しげな声が部屋の中に響く。
「ええ~……フライパンでしょ?」
ベッドの上で寝転びながら頬杖をついて僕は答えた。
「ぶーっぶー! 正解は~……日曜日の朝にやってる『パンパカパンマン』の、肉まんパン! メロメロンパンとか、あままあんパンは商品化してるのにそれだけまだなんだよ!」
「え~何それ。ねぇフライパンは? 食べれなくない?」
「フライパンは頑張れば食べれるよ!」
「食べれないよ」
僕が笑ってみせると、蒼角ちゃんもつられてえへへと笑う。ベッドの上で、滑らかな肌を露出させながら。
「ハルマサもなぞなぞ出して!」
子どもっぽいことをその口で言っているのに、同じ場所から艶めかしい音を上げるのを僕は知ってる。
「そうだなぁー……じゃあ4匹のねずみが食べるものってな~んだ」
僕はそう言うと蒼角ちゃんの頭をそっと撫でる。彼女は一瞬目を瞑り、それから考えるように唇を尖らせた。
「ねずみさん? えーっとー、確かチーズが好きなんだよね。でもそれだとなぞなぞにならないし、4匹いるんだからー……チーズが、4つ……⁇」
「チーズから離れてよ」
「ええ~っ」
蒼角ちゃんは真剣に考え始めたのか、起き上がってその場に座った。体にかかっていたタオルケットがするすると肩をすべって落ちていく。
肌が露わになり体の曲線が現れた。
「蒼角ちゃん」
「ん??」
「風邪引くよ」
僕がタオルケットを広げると、蒼角ちゃんは僕の身体に寄り添うようにベッドの上でぴったりとくっついてきた。
温かい。
「じゃー、ヒントね」
「ヒント! なになに?」
「今日の夕飯はなんだったでしょ~か」
「お夕飯? シチュー食べたよ! ハルマサがお野菜いっぱい入れたシチュー! お肉ももっともっと入れてもよかったと思う」
「お肉はまた今度ね」
「うん! ……? で、なんだっけ?」
「シチュー」
「うん、シチュー」
「なぞなぞの答えだよ」
「え⁉ どーゆーこと⁉」
顔を上げた蒼角ちゃんの鼻先がぶつかる。まん丸な目が僕を見た。
「可愛い」
「えー?」
ぎゅう、っと抱きしめると体が一つになったみたいに温かさが伝わってくる。
僕の胸板に押し付けられた小さな胸の柔らかさに、
僕の掌に収まってしまいそうな形のいいお尻に、
脳が蕩ける。
「……幸せ」
「ハルマサどしたの?」
「蒼角ちゃんが可愛くて離したくないんだよ」
「ふーん?」
すると僕の腕の中でもぞもぞと動き始めた蒼角ちゃんの両腕が僕の首に絡みつく。
「蒼角もぎゅーってする!」
そう言ってふにふにとした頬を僕の頬にくっつけた。
「幸せ~」
「わたしも! しあわせ!」
「ご飯食べてる時よりも?」
「もっちろん!」
くっついていて見えなかった蒼角ちゃんの顔が
僕の視界いっぱいに映り込んだ。
「ハルマサと一緒にいる時が
一番しあわせ」
ツン、と鼻の奥が痛くなる。
泣きそうになったと言ってしまえば簡単だけれど。
僕はいろんな感情が込み上げてきて何も言えなくなった。
どうか
どうかどうか
僕がいつか消えてなくなるその日まで
たくさんたくさんこの幸せを感じられますように。
「……好きだよ、ずっと」
「蒼角も!」
「ありがと」
重なり合った肌の熱が、二人を眠りへと誘っていった。
〈了〉

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