「シンカン? って、なーに?」
月城柳のデスクに貼られたメモ紙を見ながら蒼角が尋ねた。
柳は今しがた確認の終わった書類から目を離して、同じようにメモを見る。
「新人歓迎会です、来月行うことになったんですよ。バタバタしていて少し遅れてしまいましたが……私と5課の方で幹事をすることになりまして」
「シンジンカンゲーカイ? そっかコーハイさんたちのお祝いだぁ! それってどんなことするの?」
「みんなでご飯を食べるんですよ」
「ゴハン!? わ~い!」
「H.A.N.D.全体の催しですから……蒼角が参加するのは初めてですね」
「うん! ねえ何食べるの?」
「それを迷っていて……多分人数を考えると居酒屋になってしまうでしょうね」
「イザカヤ……」
首を傾げ、イザカヤを想像する蒼角。
サカナみたいと一度思い始めるといろんな種類のお魚がお皿の上に並んでる様子が頭に浮かんだ。
「ええと、お酒とそれに合う料理がたくさんあるお店、ですよ」
「おさけ? そーなんだ! みんなおさけ飲むんだね~」
「あっ、蒼角はもちろん飲んじゃだめですよ?」
「うん! ジュースはいっぱいある? あ、でもお水でもいいよ! 蒼角はご飯をいっぱい楽しむから!」
「……蒼角が楽しめるように前もって大量に食材を発注しておいてもらわないとですね」
柳が目を細め新人歓迎会のことを考えていると、反対側のデスクからため息が聞こえてきた。
「それって~、僕も参加しなくちゃだめですかぁ~? 僕、たくさん人がいるところでご飯とかちょっと具合悪く……うっぷ。大体、六課 には新人なんて入ってないじゃないですか~」
「浅羽隊員、これも職務のうちです。全員強制参加ですよ」
「ええ~!? ねね、課長もめんどくさいでしょ? なんか言ってやってくださいよぉ~」
ふいに浅羽悠真に声をかけられ、刀の手入れをしていた星見雅は顔を上げた。
「む、メロンはあるのか」
「メロンのデザートがあるお店にしたら課長も来るんですね?」
「ああ、行こう」
「ちょっと課長~~!!!」
味方がいなくなったのか悠真はデスクに突っ伏すと「あーあ」と呟いた。
「浅羽隊員は何料理があればいいですか? 希望はお聞きしておきますよ」
「僕はただH.A.N.D.全体の飲み会ってのが嫌なだけですよぉ。ほら、別の部署にいるでしょ、やたらめったら酒を進めてくるおっさん」
「ああ……それなら断れば良いのでは?」
「そりゃ断りますよ~。なるべく近くにも寄らないようにするし? でも飲まないとうるさいしめんどくさいんですよ~」
「席はなるべく離しておくようこちらで考えておきます。ただ、どの席にしたとしても六課の周りに集まってくる人は多いので……注意は必要ですね」
「あーあ、参加しなけりゃ万事解決だってのに~」
悠真の呻き声が山積みの書類の間から聞こえてくる。
その様子を見ながら蒼角は目をぱちぱちとさせた。
「ハルマサ、おさけが嫌いなの? 大人はみんなおさけが好きなんじゃないの?」
「蒼角ちゃん、僕はねぇ……とっっっても体が弱いからお酒を飲むとふらふらで倒れて死んじゃうんだよ」
「死んじゃうの!?」
「――浅羽隊員」
「いやいやちょっと誇張しただけですって! し、死なないけどー……まあ、めちゃくちゃしんどくなる? 的な?」
「そっかぁ、ハルマサおさけのんだら具合悪くなっちゃうんだ……じゃあ蒼角と一緒にジュース飲んでゴハンいっぱい食べよ!」
「いやぁ、ゴハンも別にいっぱい食べないけどさぁ……ハア……ま、蒼角ちゃんもお酒飲まないわけだし、それを盾に僕も参加するかぁ」
「わかった! 蒼角タテになるよ! ハルマサの前にどーんと立ってるね!」
「うんうん、期待してるよ」
諦めがついたのか悠真は体を起こすと次に取り掛かる書類に手を伸ばした。
蒼角もまた、自分が取り掛かれる仕事に意識を向ける。しかし、
「ゴハンかぁ~♪」
頭の中はどんな料理が出てくるのかでいっぱいだった。
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