#2 おそろいデートといじわるの味 - 1/4

「あれ? これ、蒼角ちゃんの?」

 休日の午後――部屋でくつろいでいた悠真はテーブルの上に置いてある眼鏡を見て首を傾げた。
 自分の物ではない、となると必然的にそれは昨日から泊まりに来ている蒼角のものになるわけで。

「ナギねえがね、デートする時にかけなさいって! 変装だよ~」

 洗面所からなんとも楽しそうな声が聞こえてくる。
 悠真は眼鏡を手に取り度の入っていないレンズを覗き込んだ。

「変装ねぇ」

 ふいに、レンズ越しに蒼角の姿が見えた。
 洗面所から戻ってきた蒼角は、ニットのワンピース姿でくるりと回って見せた。

「えへへー、見て見て! 可愛い?」
「うん可愛いよ~」
「ほんと!?」
「ほんとだってば」

 悠真がにっこりと微笑んで見せると、蒼角はにへへと頬を緩ませて悠真の元へやってきた。
 そして彼の前へすとんと座り込むと、目を瞑って「ん!」と言う。

「ん?」
「ん~!」
「ちゅーするの?」
「違うよ! めがねかけさせて!」

 蒼角はぷくぅと頬を膨らませる。
 悠真は「ああ」と納得したように呟くと持っていた眼鏡をゆっくりと蒼角の顔にかけさせた。
 違和感を感じるのか、蒼角は少し眼鏡のつるの両側を手で抑えると良い位置で固定されたことに満足して満面の笑みを浮かべる。

「ね、可愛い?」
「とっても可愛い」
「えへへへ~」

 さっきよりももっと緩んだ表情をすると、蒼角はぎゅうっと悠真に抱き着いた。

「今日はこれでお出かけするの!」
「そうかー、それはちょっと困っちゃうなぁー」
「え、どうして困るの?」
「可愛すぎたら注目が集まっちゃうからなぁ~」
「ええ~っ! でもでも、これ、変装だよ?」
「変装が可愛すぎたら意味なくない?」
「うーん……」

 慌てて体を離し腕組をしながら考える蒼角に、悠真は堪え切れずにくすくすと笑い出す。

「いやいや、あんまり可愛いからちょっと誰にも見せたくないなって思っただけ」
「そうなの? あ、でもナギねえもおんなじこと言ってた! 『これじゃ可愛すぎますね、いっそのことパーティグッズのハナメガネの方が良いのかもしれません』って!」
「それを真顔で言ってる月城さん想像したくないなぁ」

 苦笑いする悠真に、蒼角はまた先ほどと同じように「んっ!」と言って目を瞑る。

「今度は何? 眼鏡を取れって?」
「んーん! ちゅーしよっ!」

 えへへ、と笑う蒼角に悠真は今度こそ唇を寄せた。

「ちゅっ……あ~、蒼角ちゃんが可愛くてお外に出したくない~」
「私はお外行きたーい!」
「どこ行くんだっけ?」
「えっとね、焼肉食べ放題!」
「せっかく可愛いお洋服なのに匂いついちゃうけどいいの?」
「いいよ! お洋服も焼肉食べたいかもしれないし!」
「そんなことはないと思うんだよなぁ~」
「あ、でも焼肉は夜だから、その前にお店見て回ろ!」
「いいよ、どこ行きたい?」
「えーっとねぇー……わたしが考えたら食べ物のお店ばっかりになっちゃうから、ハルマサが決めて!」
「んー、僕も特に見たいところもないしなぁ……じゃ、お腹空かせがてらちょっと歩こうか」
「はぁーい!」

 元気よく返事をした蒼角は、ぴょんと軽やかに立ち上がる。
 そして自分のお財布をどこに置いたか忘れたのか、その辺を探し始めた。
 そんな後ろ姿を見て、悠真は眉間に皺を寄せる。

「……ねぇ、そのワンピースちょっと短すぎない? 屈んだら中見えちゃうよ」
「え? そうかなぁー……いつもの制服のスカートもこれくらいだよ!」
「あれは一応中にスパッツ履いてるでしょ」
「? そうだね?」
「今は?」
「履いてないよ?」
「……僕が見られないように気を付けるしかないか」
「そんなの気にしてるのハルマサだけだよぉー!」

 ケラケラと可笑しそうに笑う蒼角に、悠真はため息を吐く。

「……可愛いかっていつも聞いてくるくせに、自分がどう見られてるかほんとに自覚してるのかねぇ、蒼角ちゃんは」

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