#4 赤色の痕 - 2/2


 ***

「――ってことがあってね! 別れた方がいいなんて言われちゃったの!」

 夜、悠真の部屋で蒼角は興奮したように話していた。
 ベッドに座って足をばたつかせている蒼角を見ながら、悠真はネクタイを外している。

「だからもしかしたらハルマサ、わるい人って思われてるのかも!」
「あははは。確かに僕は悪い人だからな~」
「ええ~!? 違うもん、わるい人じゃないもん!」
「そう?」
「そう!」
「でもさぁ」

 蒼角の隣に悠真も腰かけ、ベッドが軋んだ。
 ボタンが二つ開いた蒼角のシャツの隙間から、服の中へと悠真は手を差し入れる。
 そして肌にうっすら浮かび上がった赤い痕を撫でた。

「こうやって痕を付けてる理由は、誰にも蒼角ちゃんを取られたくないからだもの。こんなに可愛い蒼角ちゃんを独り占めしようだなんて、悪い男に違いないかもよ?」

 鎖骨を撫で、首筋を辿り、頬をすべっていく指先。
 悠真のその仕草に、蒼角はくすぐったそうに目をきゅっと瞑る。
 それから「ふふっ」と笑った。

「でも、蒼角もだもん!」
「ん?」
「だってだって、蒼角だっていーっぱいつけたよ! これ!」

 そう言ってハルマサのシャツの裾を掴み、捲り上げる。

 現れたのは

 ――歯形。

 血こそもう出ていないものの、
 抉られた肉から赤色が覗く。

「ハルマサぁ~、蒼角に嘘ついたでしょ?」
「え? 嘘?」
「だってね、今日ロッカールームでお着替えしてる時に言われたよ。ハルマサがわたしの身体につけたこれが、キスマークだって!」
「……あ~」
「前に蒼角がいっぱい噛んじゃった時、ハルマサ、『いっぱいキスマークつけられちゃったなぁ』って言ってたのに~。わたしの噛みあとはキスマークって言わないんでしょ?」
「うーん、でもこれだって蒼角ちゃんなりのキスマークじゃない?」
「?? そうなの?」
「別に僕がしたみたいにキスマークつけてくれてもいいけどねぇ」
「んん~……ちゅうーって、吸うんでしょ?」
「うん」
「でも吸ってたら、噛みたくなっちゃうかも」
「あらら」
「だってね、ハルマサのお肉も血も、甘くて美味しいもん」
「ははっ!」

 それはそれは本当に可笑しそうに、悠真の笑い声が部屋に響き渡る。
 そんな彼の様子を見て、蒼角は頬を膨らませた。

 悠真が蒼角の頭を撫でる。
 そうすれば蒼角は満足そうに笑顔になった。

「あー、はは、そう。全部食べちゃわないでね」
「食べないよ! ハルマサのこと大好きだもん!」
「ん、僕も蒼角ちゃんが大好き」
「うん! わたしね、大好きなハルマサといっぱい一緒に遊んだり、ご飯食べたり、ぎゅってしたりしたいんだぁ。

 だからね、



 ――今はまだ、全部は食べないよ」


 <了>

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