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地下鉄に乗り、辿り着いたのはルミナスクエア。
H.A.N.D.から近い薬局もあったはずだが、悠真が蒼角を引き連れてやってきたのはルミナスクエアの地下鉄駅出入り口横にある薬局だ。
「いつもここで調剤してもらってるからさ~、他のとこに行くのはちょっとね」
そう言う悠真に、蒼角は「ふんふん」と納得した様子で頷いた。扉を開けて入っていくと、蒼角は目を丸くさせた。
「わたし、薬局ってあんまり来たことない!」
「そう? 別に面白いこともないと思うけど」
「ねぇねぇ、わたしここで見ててもいい!?」
「いいけどー……僕あっちでお薬頼んでくるからね」
「うん!」
悠真がカウンターへ向かうのを見届けると、蒼角は棚をゆっくりと眺めた。包帯や、絆創膏、綿球といった傷の手当をする道具の他に──のど飴や、ドリンク剤、ゼリー飲料なども置いてあり、蒼角は目を輝かせた。
「すごい、薬局って、食べ物も置いてあるんだ! それともこれもお薬なのかな?」
すぐ隣には栄養バーのいろんな味が置いてあり、蒼角はよだれが垂れてきそうになってじゅるりと啜った。
「いけないいけない、美味しそうだけど、蒼角今日はお金持ってきてないんだもん……ガマンガマン……」
そうは言いつつも、一応栄養バーの値段を確認する。思っていたよりも高かったのか、蒼角はショックを受けたように「うっ」と呻き声を上げた。
「……あんまり見てると、お腹がぐうぐう鳴っちゃうかも」
しょんぼりとした蒼角は、棚の商品を眺めるのをやめ、悠真の元へと向かった。
「──ん? 蒼角ちゃん、もう飽きちゃった?」
調剤カウンター近くのベンチに腰かけていた悠真の横に、眉尻を下げた蒼角が座る。
「ううん、見てたらお腹減るから見るのやめとこーって」
「そんな美味しそうなものあった?」
「あったよ~。蒼角があんまり食べたことないやつばっかり。あ、でも栄養バーはH.A.N.D.で配られてるのに似てたかなぁ」
「ああ~、でも多分配給のよりは絶対ここで売ってる民間人向けの方が美味しいよ。味重視だもん絶対」
「そうなの!?」
「そうだよー」
「うう、ならなおさら食べてみたいよぉ……」
ぐうううううう。
お腹が鳴る。
もちろん蒼角の、だ。
えへへ、と蒼角が照れ笑いしているとカウンターから名前が呼ばれ、悠真は立ち上がった。悠真が受け取る薬は何種類もあるようで、長々とわかりきった説明を受ける悠真の背中は蒼角の目にも「つまらなそう」に見えた。
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