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「──待たせちゃってごめんね」
薬局を出るなり、悠真はそう言った。
「ううん! 私、ケガとかあんまりしないから薬局って来たことなかったけど……面白かったよ!」
「面白かった? どの辺が?」
「見たことない物とか、いろいろ置いてた!」
「はは、楽しめたんならそりゃよかったね」
肩をすくめて笑う悠真に、蒼角は彼の手にある袋の中をそっと覗き込んだ。
「これ、ぜーんぶハルマサのお薬?」
「ん? そうだよ、とりあえず2週間分」
「たーくさん種類あったね! わかんなくなっちゃったりしない?」
「しないしない。もう長いこと飲んでるし、慣れたもんだって」
「へぇー……あっ」
ぐうううううううううう。
先ほど聞いたものよりも長い長い腹の虫の音。蒼角はお腹を摩ると力なく「お腹減っちゃったぁ」と肩を落とした。
「……あー、ごほん。……アイタタタター! うーんなんだか体のあっちこっちが痛くなってきたなぁ」
「え!? ハルマサ大丈夫!?」
「これはすぐにお薬を飲むしかないなぁー。でも僕今空腹だから、すぐにお薬飲んだら身体に悪いなぁー。あー、とにかく何か食べないとー」
「そ、それは大変! どうしよう。何食べる? 薬局入って、何か買う!? さっきの栄養バーとか……」
「あ! あそこにいーい感じにお腹を満たしてくれそうなお店があるなぁー!」
「どこ!? どこどこ!?」
「あれあれ」
そう言って悠真は横断歩道の向こう側を指差した。
「蒼角ちゃん、僕と一緒にあっちまで行ってくれるかな?」
「うん! 蒼角が連れてったげる!」
やる気に満ちた蒼角は、『具合の悪い』悠真を担ぎ上げようとした……が、悠真はそれを丁重に断った。
──横断歩道が青になるのを待ち、渡り切ったところですぐ左に曲がる。見えてきたのは六課でも時々やってくるラーメン屋。
「……ここ?」
「蒼角ちゃん早く早く!」
いつのまにか席についている悠真に手招きされ、蒼角は少し戸惑いながらもとなりの席へと着く。
「何食べるー?」
「えっ! そ、蒼角も食べていいの?」
「もちろん。僕が食べ終わるのを横に立って待っててもらうってのも申し訳ないしさぁ……ま、お薬買うのついてきてくれたお礼に一杯ぐらい奢るよ。……いや、五杯? 十杯はいるかな?」
「だ、大丈夫だよぉ! その……一杯をゆ~~~~っくり食べるから!!」
「ははは、遠慮しないでよ。僕が食べ終わるまでに食べれるなら何杯でもどうぞ」
「……ホント!?」
「ほんとほんと」
悠真がそう言うと、蒼角はぱあっと顔色を明るくして嬉しそうに両手の拳をきゅっと握った。
──そして悠真が一杯のラーメンを啜る最中。
隣の蒼角はラーメンを超高速で吸い上げ、
みるみるうちに重なるどんぶりに店主が青ざめていくのは至極当然の結果であった。
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