#2 サボりと肩の重み - 5/5

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 窓の外はとっくに夜の闇がとっぷり浸かっている。今日も定時で帰れなかったことに悠真は一人嘆いていたが、蒼角の方も何やらうんうんと唸りながら机に突っ伏している。

「うう~~、反省文書けないよぉ~~~」

「あららー蒼角ちゃん、僕が代わりに書いてあげよっか?」

「ホント!?」

「浅羽隊員、蒼角を甘やかさないでください。それよりご自分の反省文の方を気にした方が──」

「大丈夫ですよ~副課長。僕の反省文はもう書き終えたんで」

「それは……ちゃんと仕事してましたか?」

 柳の目が光る。悠真は気づかないフリをして顔を逸らした。

「……はあ、仕方ないですね。蒼角は帰ったら私が反省文の添削をしてあげましょう」

「いやいや、副課長の方が甘いんじゃないですか!?」

「ナギねえが手伝ってくれるの? やったあ!」

「あくまで添削をするだけですよ。書くのは蒼角です。……それでは帰りましょうか。課長も今日は先に帰っていますし」

「あーあ、僕もサボりに行かずにさっさと仕事終えとけばよかったなー。どうせ副課長が仕事たんまり持って戻ってくるだろうからーと思って出かけちゃったもんなぁー」

「次からはサボりを選択肢に入れず仕事をしてくださいね、浅羽隊員」

 柳はトントンと書類をまとめると、帰り支度を始めた。蒼角もげんなりとした様子で席を立ち、帰る様子だ。悠真も同様、帰る為支度をする。もちろん持ち帰る仕事は無い。

「蒼角、これを一課に提出してくるので玄関で待っていてくれますか?」

「はーい」

 柳がカツカツと足音を立てて出ていくと、蒼角はくるりと悠真の方を振り返った。

「いーなーハルマサは、反省文書くの慣れてて」

「それってどういう意味かな、蒼角ちゃん。別にねぇ、僕は反省文を書くのが慣れてるわけじゃないんだよ? 反省文を書くのが面倒だから多種多様なテンプレートをPCに元々入れておいてるだけで!」

「えー! それってズルしてるってこと!?」

「ズルじゃないって! こういうのは備えておくって言うんだよ」

 ぷうう、と頬を膨らませ蒼角は悠真を睨みつける。

 反対に、悠真はその様子を見てけらけらと笑っていた。

「……ま、蒼角ちゃんには申し訳ないけどさ。僕は今日お出かけできてよかったよ」

「よかった? えーとそれって、お薬もらいに行ったこと? ラーメン食べたこと?」

「んー、別にそのどちらも特別なことじゃないけどさ~……」


 きょとんとする蒼角。

 不思議そうに悠真を見て、首を傾げた。

 悠真はそんな蒼角を眺め、目を細める。


「……ま、反省文書くくらいは別にいっかって感じ」

「えー、何それ意味わかんないよぉ」

「僕もよくわかんなーい♪」

「ええ~~~!?」

「あ、それ僕にも貸してよ」

「どれ? ……あ、わたしのおもちゃ!」


 ──ピョロロロ。


「も―返してよー!」

「久しぶりにやったけど、これの何が面白いのかね?」

「面白いもん! ハルマサのいじわる!」


 ──職場の明かりが消される。

 その後も他愛のないやりとりをしながら、二人はその場を後にした。


 ピョロロロロー


 という気の抜けた、

 H.A.N.D.に似つかわしくない音を廊下に響かせながら。

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