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窓の外はとっくに夜の闇がとっぷり浸かっている。今日も定時で帰れなかったことに悠真は一人嘆いていたが、蒼角の方も何やらうんうんと唸りながら机に突っ伏している。
「うう~~、反省文書けないよぉ~~~」
「あららー蒼角ちゃん、僕が代わりに書いてあげよっか?」
「ホント!?」
「浅羽隊員、蒼角を甘やかさないでください。それよりご自分の反省文の方を気にした方が──」
「大丈夫ですよ~副課長。僕の反省文はもう書き終えたんで」
「それは……ちゃんと仕事してましたか?」
柳の目が光る。悠真は気づかないフリをして顔を逸らした。
「……はあ、仕方ないですね。蒼角は帰ったら私が反省文の添削をしてあげましょう」
「いやいや、副課長の方が甘いんじゃないですか!?」
「ナギねえが手伝ってくれるの? やったあ!」
「あくまで添削をするだけですよ。書くのは蒼角です。……それでは帰りましょうか。課長も今日は先に帰っていますし」
「あーあ、僕もサボりに行かずにさっさと仕事終えとけばよかったなー。どうせ副課長が仕事たんまり持って戻ってくるだろうからーと思って出かけちゃったもんなぁー」
「次からはサボりを選択肢に入れず仕事をしてくださいね、浅羽隊員」
柳はトントンと書類をまとめると、帰り支度を始めた。蒼角もげんなりとした様子で席を立ち、帰る様子だ。悠真も同様、帰る為支度をする。もちろん持ち帰る仕事は無い。
「蒼角、これを一課に提出してくるので玄関で待っていてくれますか?」
「はーい」
柳がカツカツと足音を立てて出ていくと、蒼角はくるりと悠真の方を振り返った。
「いーなーハルマサは、反省文書くの慣れてて」
「それってどういう意味かな、蒼角ちゃん。別にねぇ、僕は反省文を書くのが慣れてるわけじゃないんだよ? 反省文を書くのが面倒だから多種多様なテンプレートをPCに元々入れておいてるだけで!」
「えー! それってズルしてるってこと!?」
「ズルじゃないって! こういうのは備えておくって言うんだよ」
ぷうう、と頬を膨らませ蒼角は悠真を睨みつける。
反対に、悠真はその様子を見てけらけらと笑っていた。
「……ま、蒼角ちゃんには申し訳ないけどさ。僕は今日お出かけできてよかったよ」
「よかった? えーとそれって、お薬もらいに行ったこと? ラーメン食べたこと?」
「んー、別にそのどちらも特別なことじゃないけどさ~……」
きょとんとする蒼角。
不思議そうに悠真を見て、首を傾げた。
悠真はそんな蒼角を眺め、目を細める。
「……ま、反省文書くくらいは別にいっかって感じ」
「えー、何それ意味わかんないよぉ」
「僕もよくわかんなーい♪」
「ええ~~~!?」
「あ、それ僕にも貸してよ」
「どれ? ……あ、わたしのおもちゃ!」
──ピョロロロ。
「も―返してよー!」
「久しぶりにやったけど、これの何が面白いのかね?」
「面白いもん! ハルマサのいじわる!」
──職場の明かりが消される。
その後も他愛のないやりとりをしながら、二人はその場を後にした。
ピョロロロロー
という気の抜けた、
H.A.N.D.に似つかわしくない音を廊下に響かせながら。
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