#5 先輩と後輩 - 3/6

 ***

「──悠真はまた遅刻か?」

 ぴんと耳を立てた星見雅が、デスクに座っている柳に訊いた。

「いえ、今日は早くから後輩指導の方に行っていて……私より早く職場に着いていたみたいなんですよ。珍しいですよね」

「そうか」

 ──あれから数日。

 六課はいつもと同様忙しない日常を送っていた。ホロウ任務、別の課への応援、書類仕事、会議。なんら変わりない。ただほんの少しの変化といえば、

 浅羽悠真が顔を見せることが減ったというだけ。

 ただこれについては以前から遅刻・病欠・急な欠勤などあった為にそう物珍しいことでもなかった。だが今回は「仕事をしていて」顔を合わせる機会が減ったというのだからどこか妙に感じるのは仕方がないこととも言える。だが、些細なことだ。柳にとっても雅にとってもここは職場で、仕事をしに来ているのだ。だからそう気に留めることでもない。

 のだが。

 蒼角だけは、つまらなさそうな顔をしていた。

「……蒼角、最近はそのジュースがお気に入りなんですか?」

 柳に声をかけられ、蒼角はデスクの上にあるジュースに目をやる。ラベルには『これで今日も元気いっぱい!』の文字。中身はもう入っていないのだが、ミカンジュースだったことは描かれている絵ですぐわかる。

「うん」

「この前浅羽隊員からもらっていましたよね?」

「うん」

「美味しいですか?」

「おいしいよ。でもこのジュース、とお~~い自販機にしかないから、あんまり買いに行けなくて」

「? そうなんですか? 確かによく通る自販機には置いてなかった気も……あとで買って来ましょうか? 何階ですか?」

「………」

「蒼角?」


 つまらなさそうな顔。

 尖った唇。

 殴り書くように漢字ワークを埋める。

 時間は刻々と進んでいく。

 今日もまた、あっという間に退勤時間がやってくるのだ。


「……ハルマサ最近遊んでくれないなぁ」

 呟きは、寂しそうに溶けていった。

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