#5 先輩と後輩 - 5/6

 ──小さい子。

 その言葉は、一瞬にして自分を病室のベッドの上へと引き戻させる。

 繋がれた点滴の管。

 薬品臭い部屋。

 優し気に(たたず)む師匠。


「……な、に」

 どくどくと脈打つ体。

 冷や汗がたらりと垂れる。

 力が抜けて、

 その場に膝をついた。

「え、ハルマサ!? もしかしてわたし、なんか変なこと言っちゃった!? ご、ごめんねハルマサ! 怒らないで!」

「いや……怒ったりはしてないよ」

「でもでも、すごく怖がってるでしょ!?」

「ええ……? ちが、ちがうよ。全然、僕は……」

 ──怖がってる。

 ──この子の目は、幼い僕を見ている。

 ──怖がってる。

 ──怖い。

 ──見ないで。

 まるで稚児がそうするように、

 手を伸ばした。


「わっ」


 小さな蒼角の身体を、悠真は自分へと引き寄せる。

 ぎゅっと、きつく、抱きしめる。

 強く、強く、強く。


「──んんっ、は、ハルマサ! 痛いよ! 放して!」

「……見ないで」

「えっ?」

「見ないで見ないで見ないで」

「ハルマサ、何言ってるの?」

「僕のこと、見ないで……!」

「本当の僕なんて

 弱くて醜い僕なんて、

 ……誰も、見ないで」

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