***
「それでねー、蒼角、ホロウで迷子になったボンプちゃんたちをたーくさん見つけて助けてあげたんだよ!」
えへん! と胸を張り、蒼角は腰に手をやった。それを隣で聞いていた浅羽悠真は「へぇ~」とニコニコ笑いながらパックジュースをストローで啜っている。
休憩時間、二人は屋上の片隅で買ってきたお昼ご飯を広げていた。
「蒼角、えらい?」
「うんうん、えらいよ~。蒼角ちゃんはもう立派な執行官だね~」
「そうでしょ! あ、ハルマサ何飲んでるの?」
「ん? にが~いお薬」
「それおくすりなの!?」
「うそだよー」
「ええ~!? なんで嘘つくの!?」
「ハハ、蒼角ちゃんも飲んでみる?」
はい、と手渡される。
蒼角はパッケージをまじまじと見たが、知らない単語が書かれていたので首を傾げながらストローに口を付けた。
ちぅー……
「──!! うっ! げほ、げほっ!! はっ、ハルマサ! うっ、ぐぇぇ」
「あっははははは!! 蒼角ちゃん、顔真っ青!! 息してる!? あははは!」
「ちょ、ちょっとぉ、何これ!? おくすりって、うそなんでしょ!? 苦いよ!?」
「ハハハハ、これはね、青汁ジュースでした~。健康になれるんだよ?」
「ケンコーになれてもこんなに苦かったらフケンコーになっちゃうよ~~!! げほっ、げほっ」
息を吸えば口の中に残った青汁の味が感じられ、蒼角は涙目で自分のハンバーガーを食べ進めた。
「ひぃ~、おもしろ……あ、いやいやごめんね? 僕にとっては何でもないんだけどねぇ~」
「ハルマサ、わたしのことからかってるでしょ!」
「からかってない日なんてないけどなぁ」
「ええー!? どーゆーこと!? それっていつも蒼角で遊んでるってこと!?」
「いやぁ~……だって蒼角ちゃんとっても可愛いから、つい」
悠真はにっこりと微笑むと、蒼角の目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭ってあげた。
「こないだの仕返しってとこかな」
「ふぁひ? ふぉふぁいふぁのひはえひ?」
「こないだ蒼角ちゃんに泣かされちゃったからさぁー、僕」
蒼角は口いっぱいに頬張ったハンバーガーをもぐもぐと咀嚼し、ごっくんと飲み込むと眉尻を下げた。
「ち、ちがうよ! わたし、ハルマサのこと泣かせようと思ったんじゃないよ! ほんとだよ!」
「どうかなー、蒼角ちゃんってば実は意地悪な性格かもしれないし……」
「いじわるなんてしないもん! 蒼角、優しいんだよ!?」
不安そうに、しかし「信じて!」と蒼角は悠真に詰め寄る。
悠真は至近距離でその潤んだ瞳を見て、ふっと笑った。
「うん、知ってるよ。蒼角ちゃんは優しいよねぇ」
そう言って、蒼角の口元についたソースを指で拭い取った。 そしてそれを自身の口に持っていき食べると、悠真は肩をすくめて見せた。
「意地悪な性格は僕の方だし」
「えーと、うん、そうかも! ハルマサはいじわる!」
「ええ~そこは、『そうじゃないよ! 悠真はとっても優しい!』って言ってくれないと~」
「だっていじわるじゃないと青汁ジュースなんて飲ませないでしょ!?」
「あ、それはそうかも~」
けらけらと笑いながら悠真は自分のサンドイッチを袋から取り出した。レタスとトマトの挟まったサンドイッチを口に運ぶと、シャキシャキとした触感に満足する。
「あー、午後もお仕事いっぱいだね! ハルマサ、がんばれる?」
「んーがんばれないけど定時で帰る為にがんばるかぁー」
「うんうん! そのイキだよ! がんばろ!」
蒼角はやる気を出す為なのか立ち上がると、拳を握って「がんばるぞー!」と伸びをした。それを見ながら悠真はサンドイッチを一口ずつ味わって食べている。
「ね、ハルマサ! 今度また……あ」
「ん?」
いつもの元気な蒼角が、途端に意地悪い顔で近寄ってくる。
悠真は驚き動けずにそれを見ていた。
「……へへーん、ハルマサもお口につけてるよ!」
蒼角の指が悠真の口元からパンくずを摘まみ上げる。
それを蒼角は、ぱくんっ、と食べた。
「ハルマサも子どもだねぇ~!」
可笑しそうに笑う蒼角。
きょとんとした顔で、それを見上げる悠真。
「……いや、蒼角ちゃんはまだ口にソースついてるよ」
「え!? どこ!?」
蒼角は慌てて舌で口の端をペロリと舐めた。
「取れた?」
「取れてない」
「……取れた!?」
「取れてなぁ~い」
しばらくの間、悠真のけらけらと可笑しそうに笑う声が屋上に響き渡っていた。
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます