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……ちゅぱ、と吸い付くような水音が鳴る。
蒼角が二本目の棒付きキャンディーを舐めていたのだ。思わずそれをちらりと見てしまった悠真の目と、蒼角の目が合った。
「……おもしろかった? 蒼角ちゃん」
「……う、ん。おもしろかったよ」
なんとなく気まずい空気。悠真は新しくお茶でも淹れようかと急須に手を伸ばそうとした。
「えっと、ハルマサは隠してくれたけど……別に、蒼角だってあーゆーの見たことあるよ」
蒼角の発言に、悠真は動きを止める。
「……え」
「ほら、夜にやってるドラマとか! ナギねえの帰りが遅くてテレビつけたら、あーゆーシーン、出てくる時あるもん」
「あ、ああー……あはは、そうだよね。ごめんね~子ども扱いして」
「………」
「僕が隠したりしちゃったから、変な空気になっちゃったねぇ」
あはは、と乾いた笑いを上げて悠真は両手を後ろにつく。
蒼角は小さくなったキャンディーを舐め、ゴリッと噛み砕いた。
がり、
ごり、
という音が部屋に響く。
(……もしかして怒らせちゃったかな)
悠真はため息を吐いた。
(家族で恋愛映画を観るとラブシーンで妙な空気になる、ってのは聞いたことがあるけどほんとなんだねぇ)
湯のみに手を伸ばす。わずかに残っていたお茶を、クルクルと回して揺らす。そしてそれをひと飲みすると、悠真は目を伏せた。この妙な空気を脱する為にはどうすべきか。それを頭の中で巡らせている。ひとまずは気持ちを落ち着ける為にもお茶を淹れるべきかな、そう思い目を開けた時だった。
こちらを見ている蒼角と目が合う。
「あ……何?」
悠真の声が上擦る。
蒼角はやけに神妙な顔で、「ねぇ」と言った。
手が伸びてくる。
その手が悠真の頬をつつつ……と撫でた。
「……っ、え」
蒼角の少しひんやりとした手が、
悠真の頬を、
耳を、
額を、
撫でていく。
「いや、え、蒼角ちゃ──」
何をされているのかわからず、悠真は困惑した。
上がる息。
視界がわずかに滲む。
口から漏れる息が熱い。
(あれ?)
悠真が気づくよりも前に、蒼角がそれを言葉にした。
「……ハルマサ、お熱ある?」
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