#7 熱と肌 - 5/11

 ***

 ……ちゅぱ、と吸い付くような水音が鳴る。

 蒼角が二本目の棒付きキャンディーを舐めていたのだ。思わずそれをちらりと見てしまった悠真の目と、蒼角の目が合った。

「……おもしろかった? 蒼角ちゃん」

「……う、ん。おもしろかったよ」

 なんとなく気まずい空気。悠真は新しくお茶でも淹れようかと急須に手を伸ばそうとした。

「えっと、ハルマサは隠してくれたけど……別に、蒼角だってあーゆーの見たことあるよ」

 蒼角の発言に、悠真は動きを止める。

「……え」

「ほら、夜にやってるドラマとか! ナギねえの帰りが遅くてテレビつけたら、あーゆーシーン、出てくる時あるもん」

「あ、ああー……あはは、そうだよね。ごめんね~子ども扱いして」

「………」

「僕が隠したりしちゃったから、変な空気になっちゃったねぇ」

 あはは、と乾いた笑いを上げて悠真は両手を後ろにつく。

 蒼角は小さくなったキャンディーを舐め、ゴリッと噛み砕いた。


 がり、

 ごり、


 という音が部屋に響く。

(……もしかして怒らせちゃったかな)

 悠真はため息を吐いた。

(家族で恋愛映画を観るとラブシーンで妙な空気になる、ってのは聞いたことがあるけどほんとなんだねぇ)

 湯のみに手を伸ばす。わずかに残っていたお茶を、クルクルと回して揺らす。そしてそれをひと飲みすると、悠真は目を伏せた。この妙な空気を脱する為にはどうすべきか。それを頭の中で巡らせている。ひとまずは気持ちを落ち着ける為にもお茶を淹れるべきかな、そう思い目を開けた時だった。

 こちらを見ている蒼角と目が合う。

「あ……何?」

 悠真の声が上擦(うわず)る。


 蒼角はやけに神妙な顔で、「ねぇ」と言った。


 手が伸びてくる。


 その手が悠真の頬をつつつ……と撫でた。


「……っ、え」


 蒼角の少しひんやりとした手が、

 悠真の頬を、

 耳を、

 額を、

 撫でていく。


「いや、え、蒼角ちゃ──」


 何をされているのかわからず、悠真は困惑した。

 上がる息。

 視界がわずかに滲む。

 口から漏れる息が熱い。


(あれ?)


 悠真が気づくよりも前に、蒼角がそれを言葉にした。

「……ハルマサ、お熱ある?」

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!