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──どどどどうしよう!
──えーっとえーっととにかく寝ないと!
蒼角の声がぼんやりと聞こえる。自身の体調の悪さを自覚した途端、悠真の意識は少しずつ遠のき始めていた。
「蒼角ちゃ……あの、僕、大丈夫だからさ。とにかく今日は帰っていいから……」
──何言ってるの!?
──こんなハルマサ放って帰れないよ!
──ベッド! ベッドに行こ!
「いや、えーと、ちょっと床で寝てれば少しはラクに……」
──床で寝たらだめだよ!
──もう、蒼角が運ぶから!
小さな体が悠真を横抱きで抱え上げる。蒼角に掴まればいいものの、力が入らない悠真は小さな肩に上半身をだらしなく預けてしまった。
呼吸は浅く、苦しい。
入ってくる酸素が薄いせいでこのまま意識を手放しそうになる。だが、ベッドにどさっと置かれた衝撃で悠真は再び瞼を開けた。
──えーっとえーっと、あ、これ体温計だよね!?
──はい、お熱計って!
──う~~~~、ハルマサ、お熱計るの~~!!
蒼角が呻いている。悠真は急激な倦怠感に体温計を持つこともままならない為、上手く測れないのだ。急にひやりとした手が悠真の服の内側へと滑り込み、腹部を、胸部を撫でる。
──脇にこうやってはさむんだよね?
──ううー、これで測れてるかなぁ……。
──あ、39度だって! これって高いよね!?
──どうしよう、えーっと、とにかく病院? お薬?
──あ、そうだナギねえに助けてって連絡すれば……!
咄嗟に何か声をかけようと思ったが、薄く開いた悠真の唇からは何の音も出なかった。代わりにできたのはわずかに動かせた指先で、蒼角の服の裾を握ること。
──ハルマサ?
蒼角の声が、優しく撫でるように発音される。
それを聞いて悠真はほっとした。
「……薬、飲めばすぐ良くなるから。とりあえず今は、寝かせて」
そう言った彼の意識はそこで途切れ、急にベッドの深く深く深く奥へと落とされていくように感じた。
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