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──夢を見た。
病室のベッドの上に幼い僕がいて、
ぼうっとしている。
部屋に独りぼっちが怖くて、
小さな手でシーツをぎゅっと握ると、
両親を呼んで静かに泣いた。
真っ白な壁は僕を取り込んでいくようで、
手から伸びる点滴の管はまるで鎖のようで、
泣き声は次第に大きくなっていくけれど、
誰もここにはやってこない。
やってこない。
そのうち泣くことは意味のないことだと理解して、
僕は泣くのをやめた。
『──悲しい時はね、いっぱい泣いていいってわたし知ってるよ!』
突然聞こえた声。
乾いた涙痕を僕は拭った。
「だれ?」
『それでね、いっぱい涙流したら、その分たくさんお水が飲みたくなるんだよ。そしたら蒼角の飲み物分けてあげる!』
「そうかく? おねえちゃんのなまえ? どこにいるの?」
幼い僕は、必死に声を上げる。
この真っ白な部屋には僕以外誰もいない。
外へ出ていく扉もない。
天井に向かって、叫ぶ。
『だいじょうぶ、だいじょうぶ。ハルマサがいい子だって、蒼角、知ってるよ』
その瞬間、頭を撫でられた感覚がした。
ふと横を見れば、そこには青い肌をした鬼の少女。
幼い僕は初めて見た生き物に「あっ」と小さな声を上げる。
『だいじょうぶだよ』
『すぐ良くなるからね』
少女は優しい笑みを携えて、
幼い僕の頭を、
額を、
頬を撫でる。
『怖くないよ、蒼角がいるよ』
その途端、
僕はぽろりと涙を流した。
「どこにも行かない?」
怖がりな声が、小さく問う。
『行かないよ』
「ずっといっしょ?」
『うん』
「本当?」
僕の問いに、お姉ちゃんは満面の笑みで頷いた。
涙がぽろぽろと止まらない。
お姉ちゃんがそれを拭ってくれようとしたけれど、
僕はたまらずその胸に抱きついた。
『……大丈夫だよ』
お姉ちゃんの手が優しく僕を撫でる。
柔らかな胸が温かくて、
僕はいつか両親に抱かれた日のことを思い出した気がした。
そんな、夢。
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