#7 熱と肌 - 8/11

 ***

 ──夢を見た。

 病室のベッドの上に幼い僕がいて、

 ぼうっとしている。

 部屋に独りぼっちが怖くて、

 小さな手でシーツをぎゅっと握ると、

 両親を呼んで静かに泣いた。

 真っ白な壁は僕を取り込んでいくようで、

 手から伸びる点滴の管はまるで鎖のようで、

 泣き声は次第に大きくなっていくけれど、

 誰もここにはやってこない。

 やってこない。


 そのうち泣くことは意味のないことだと理解して、

 僕は泣くのをやめた。


『──悲しい時はね、いっぱい泣いていいってわたし知ってるよ!』


 突然聞こえた声。

 乾いた涙痕を僕は拭った。


「だれ?」

『それでね、いっぱい涙流したら、その分たくさんお水が飲みたくなるんだよ。そしたら蒼角の飲み物分けてあげる!』

「そうかく? おねえちゃんのなまえ? どこにいるの?」


 幼い僕は、必死に声を上げる。

 この真っ白な部屋には僕以外誰もいない。

 外へ出ていく扉もない。

 天井に向かって、叫ぶ。


『だいじょうぶ、だいじょうぶ。ハルマサがいい子だって、蒼角、知ってるよ』

 その瞬間、頭を撫でられた感覚がした。

 ふと横を見れば、そこには青い肌をした鬼の少女。

 幼い僕は初めて見た生き物に「あっ」と小さな声を上げる。

『だいじょうぶだよ』

『すぐ良くなるからね』


 少女は優しい笑みを携えて、

 幼い僕の頭を、

 額を、

 頬を撫でる。


『怖くないよ、蒼角がいるよ』


 その途端、

 僕はぽろりと涙を流した。

「どこにも行かない?」

 怖がりな声が、小さく問う。

『行かないよ』

「ずっといっしょ?」

『うん』

「本当?」

 僕の問いに、お姉ちゃんは満面の笑みで頷いた。

 涙がぽろぽろと止まらない。

 お姉ちゃんがそれを拭ってくれようとしたけれど、

 僕はたまらずその胸に抱きついた。

『……大丈夫だよ』

 お姉ちゃんの手が優しく僕を撫でる。

 柔らかな胸が温かくて、

 僕はいつか両親に抱かれた日のことを思い出した気がした。

 そんな、夢。

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