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──帰宅後、夕暮れが近づく中ビデオを見ていた二人だが、案の定蒼角は眠ってしまった。最初の十五分こそ耐えていたものの、次第にカクン、カクン、と舟を漕ぎ始め、そのうち隣に座る悠真の肩にこてんと頭を載せた。蒼角の角が視界に入り悠真は苦い笑いを浮かべるとリモコンの停止ボタンを押す。それから倒れてしまわないように蒼角の肩を抱いた。
「んぅ……」
小さな呻きを上げ、蒼角の瞼がぴくりと動く。
しかし開けようとはしない。
仕方なく悠真は彼女をそっと抱き上げて、寝室へと連れていった。
「──にゃあお」
猫の鳴き声がしたと同時に、悠真の脚に頭を擦って通り過ぎていく。
「ごめんね、僕らこっちで寝るから」
そう猫に断りを入れると、悠真はベッドの上にそっと蒼角を下ろした。優しく置いたつもりだが蒼角はゆっくり瞼を開けると目の前の悠真を見た。ぼんやりとした眼差しは情欲を掻き立て、悠真は彼女の顔の横に手をつくと、つい口づける。
「……ハルマサ」
「……ん?」
「えっちなこと、するの……?」
「……しないよ」
「そっかぁ」
そう言って、また蒼角は眠りについた。悠真はしばらくその様子をじっと見ていたが、ため息を吐くと彼女と同じようにベッドの上に体を横たえた。
(できるならすぐにでもしたいけど)
(でも付き合うって決めた時に面と向かって「しない」って言っちゃった手前、あっさり手出すとか大人以前に人間失格でしょ……)
(そもそも僕の身体はそんな強くないしね、しなくたってかまわないわけだし)
やれやれ早く自分も眠りにつこう、と悠真は目を伏せた。
するとすぐに眠気はやってくる。
久しぶりに休日に外を出歩いて疲れたのだ。
きっと夜まで起きられないかもしれない。
不明瞭な意識の中で、うっすらと開けた瞼の隙間から、静かな寝息を立てる蒼角を見た。
(……それでも、蒼角ちゃんからしたいって言ってきた時は
……我慢する気は毛頭ないかな)
小さな手に自分の手を重ね、悠真は目を伏せた。
彼らの休日はこうして時間が流れていく。
昼寝も、
ご飯を食べるのも、
夜更かしをして笑い合うのも、
全てがいつかやってくる別れの日に備える為の幸せ。
だからこそ、その幸せを求めて
これまでよりもずっと貪欲に生きていく。
「──好きだよ、蒼角」
「ヤダって言ったってもう離してあげない」
「こう見えて僕はしつこいからねぇ」
小さな体をきつく抱きしめた。
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