#16 君と僕 - 5/5

 ***

 ──深い深い闇の中、

 ──薄明りに目を凝らし、

 ──夢から次第に浮き上がる。


 今が一体“何時いつ ”なのか、

 曖昧な意識の中では判然としない。


 思い返してみれば

 何度も見ては打ちのめされたエーテリアスになる悪夢を、

 もう今はしばらく見ていない。


 夜中に目を覚ますことは今でもよくあるけれど、

 隣を見れば幸せそうに寝息を立てる彼女がいる。


 前より少し伸びた髪を撫でて、

 今もまだ小さな額に唇を寄せて、

 起こさないようにぎゅっと抱きしめれば、

 それだけで波立った心が落ち着いていくのがわかった。

 安息を手に入れた僕に、もう怖いものなんてない。

 けれども

 それでもどうしても

 不安で不安で仕方がない時は。


「──眠れないの?」

 そっと目を開ける君が、僕を見た。


「なんか目覚めちゃってね」

「怖い夢、みた?」

「いいや」

「なんか、考えごと?」

「うーん」

「夜はねぇ、真っ暗でなんにもみえないから、考えごともおやすみしなきゃなんだよ」

「うん」

「考えるの、やめられない?」

「そうかもしれない」

「そういうときはね」

 もぞもぞ、と体を動かして

 蒼角は布団の中で僕の上に跨った。

「なんにも考えなくていーように、いっぱいちゅーしてあげるね」

 僕の額に、

   頬に、

   耳に、

   首に、

   鎖骨を噛んで、

   肩に吸い付いて、

   左胸へ唇を押し付ける。


「おまじないだよ」

 まるで儀式のようにそうすると、

 ようやく僕の唇に吸い寄せられてきた。

「ハルマサが怖いもの、蒼角がぜんぶたべてあげる」

 小さな唇が優しく()んで、僕を甘やかす。

 彼女の熱い吐息を飲み込んで、肺がいっぱいになる。

 どくどくと波打つ心臓は、この子の為に動いているんだ。


「ハルマサ、だーいすき」


 ──砂糖菓子のような甘い声が全身を溶かした。


〈了〉

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