「お兄ちゃん、さあ乗って!」
病院前に乗り付けた見慣れた車、運転席にはリン。
アキラはドアを開け、助手席に座った。
「も~昨日は大変だったよ~」
そうぼやくリンの横顔を見てアキラは苦笑いをする。
「お疲れ様、リン」
「お兄ちゃんこそ、お疲れ様」
――アキラがホロウ災害に巻き込まれたのが昨日の昼のこと。
助けに行った邪兎屋とイアスに同期したリンは倒れたアキラを見つけると、入れ替わりでやってきた治安局が彼を救助するのを見届けてホロウを後にした。邪兎屋だけであれば「ホロウ災害に巻き込まれた」ということにしてその場にいても良かったのだが、リンが同期しているボンプ――イアスは青衣や朱鳶に見られると質問攻めに合うことも考えられる。
その後感覚同期を解除したイアスは邪兎屋に任せ、リンは店舗兼自宅で治安局からの連絡を待った。しばらくして青衣から直接連絡が入り、アキラが市街にある病院へと運び込まれたことを聞かされる――。
「お兄ちゃんが無事だって電話口で聞いてほっとしたよ~。それまで生きた心地しなかったんだから!」
「あはは……ごめんよ」
――連絡を受け病院へと向かったリンは、案内された病室で意識の戻らないアキラと対面した。検査の結果、現時点で侵蝕は見られないこと、今は意識が戻るのを待っていることを説明され、リンはアキラが目を覚ますのを待った。看護師が去ってすぐ、アキラが目を覚ましたわけだが……。アキラとリンがキスをしていたことは誰にも見られていなかったとはいえ、その後リンが帰ったあと何人もの看護師から「兄妹で仲がとてもいいんですね」と言われることになる。
その日は様子を見て入院し、翌日再度エーテル侵蝕の検査を受けたアキラは、今後も経過を見るようにと医者から言われて退院することに――。
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