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「……お兄ちゃん、もう無理だってば」
リンの口から熱い息が漏れる。
「そんなこと言わずに、ほらもうちょっとだから」
焦ったようなアキラの声。
「ん゛んっ、でも、もういっぱいぃ……」
リンの目には涙がうっすらと浮かび、熱っぽく頬が染まっている。
身じろぎをしたせいで、ベッドが軋んだ――。
「……なーにイチャついてんのかしら?」
ニコの声に、
ベッドの上に厚着をして座り込んでいるリンと、
お粥をリンの口に入れようとしていたアキラがハッと振り返った。
「ちょっとぉ、なんでニコが部屋に勝手に入ってくるのぉ」
喉が痛いのか喋りにくそうにしているリンがむっとした顔で抗議する。アキラは匙の上のお粥をリンの口に詰め込むのを諦めたのか、サイドテーブルにお粥の入ったお椀を置いた。
「パエトーンに相談があってきたんだけど、ちょっとその様子じゃ無理そうね。風邪でも引いた?」
「昨夜はだいぶ冷えただろう、大方お腹を出して寝ていたんだろうと思うよ」
「ちょっと、お兄ちゃぁん゛……」
げほげほ、と咳を一つしたリンの背中をアキラはそっと摩った。
「そういうわけだから、ちょっと今日は手伝ってあげられそうにないな。ニコ、またにしてもらってもいいかい?」
「んー、本当は急ぎなんだけど……ま、いいわ。その代わり今度の依頼はまけてよね!」
「それは約束しかねるけど……」
「リンも早く風邪治しなさいよ~? じゃないととっっっっても大事な顧客が! 別のとこに依頼持ってっちゃうわよ~!?」
「……はいはい、わかったってばぁ」
ひらひらと手を振るリンを見て、ニコは諦めがついたのか「じゃーねー」とリンの部屋を出ていった。部屋に残された二人はまた「ほら、もうこれで最後だから食べて」「お腹いっぱいなんだってばぁ」とやりとりを再開したのだった。
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