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「――ってことがあったわけ」
事務所に帰ったニコが話した内容に、アンビーと猫又は真面目な顔でゆっくりと同じ方向へ首を傾げた。
「ニコ、それがどうかしたの?」
「風邪引いちゃったのか~、それでリンちゃんへお見舞いに何か持っていこうって話?」
「ちーがーうっての! やっぱあの二人、距離感おかしいわよねって話!!」
ああ……と猫又は納得したような声を上げたが、アンビーはまだ納得していないようで首を傾げたままだ。
「距離感?」
「そうよ! なんていうかー、兄妹にしちゃ仲良すぎじゃないあの二人」
「仲が良いのは良いことよ。映画でも仲のいい兄弟や兄妹、姉妹、姉弟をよく見るわ。反対に仲の悪い間柄も見るけれど」
「仲が良すぎるの兄妹じゃちょっと怪しく思っちゃうってこと!」
「……わからないわ」
「はあ、アンビー……あんたのそーゆー天然なところ私は好きよ」
「ありがとう、ニコ」
ニコは氷で薄まったボムコーラを喉に流し込むと少し躊躇いがちに話した。
「だって、もしかしてこの扉の向こうではいかがわしいことが起きてんじゃないかしらってドキドキしちゃったのよ。こんな会話の中開けても大丈夫? 本当に? って!」
「でもニコは開けちゃったんでしょ~?」
「開けるに決まってるじゃない! そんな二人の事情なんてあたしの相談ごとに比べたらどうでもいいもの!」
「言い切っちゃったぞ、この人」
猫又は呆れ顔だが、アンビーはうんと一つ頷いている。
「私も開けるわ」
「でしょ!?」
「プロキシ先生たちが何をしていても私は驚かない」
「そういうことじゃなくって!」
アンビーのとぼけたような回答に、猫又は笑顔を引き攣らせた。
「アンビー、さすがに男女が致してるところに堂々と入っていくのはよくないと思うぞ。気を付けた方がいいにゃ~」
「致している?」
「猫又! 可愛いアンビーに変なこと教えちゃだめよ!」
「大丈夫よニコ、私、映画から何でも学んでいるわ。男女交際についても」
「お、じゃあみんなで今度18禁のすごい映画でも観に行く?」
「猫又!!!!」
「冗談だってニコ~」
今にも掴みかからんとするニコとけらけらと笑う猫又を見つめながら、アンビーは今しがた食べ終えたハンバーガーの袋をくしゃっと丸めた。
「……18禁映画、確かにそれもいいわね」
その時事務所の扉が勢いよく開かれた。
入ってきたのはビリーだ。手にはビニール袋が二つ。ニコのお使いから帰ってきたようだった。
「ただいま戻ったぜー! ……って、何だ? みんなして俺の事見て」
「あんたって成人扱いになるの?」
「ニコ、ビリーの精神年齢は人間でいうところの18歳にはまだ満たないと思うわ」
「確かに、知能機械人って年齢制限どうなるんだろ。製造年数? それとも知能テストで合格したらもう成人認定?」
「おいおいおいニコの親分もアンビーも猫又も、一体何の話してんだ?」
「「「ビリーはまだお子様って話」」」
ぽかんとしたビリーをそのままに、三人は解散したのだった。
「……俺ってお子様だったのかー!?」
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