#5 そしていつも通りの日々へ - 2/5

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「あー!!! また俺の負けじゃねぇかー!!!」
「ふふ、今日は僕の勝ちでおしまいだね」
「いいや! もう一回だ! もう一回やれば俺が勝つ!」
「そうは言ってもビリー、お金はもうないんじゃないのかい?」
「ふっふっふ、舐めてもらっちゃ困るぜ店長。俺は昨日ニコの親分からボーナスをたっぷりもらって……て、おおん? 親分から連絡だ。なになに? 『GOD FINGERにいるのはわかってるわ、今すぐ滝湯谷で私とアンビーと猫又のラーメンを買って帰ってきてちょうだい』……!? ぬわあーーー!!! 俺のボーナスがまた散っていくーーー!!!!」

 ビリーの様子から、「またおつかいの代金はもらえないんだな」とアキラは同情した。
 がっくりと肩を落としたビリーは筐体にしばらく突っ伏し、それから諦めたように立ち上がった。どうやらおつかいに行くようだ。
 店を出ると、外は夕焼け色に染まり始めていた。

「店長、この戦いの決着は次にお預けだぜ……」
「そうみたいだね。いつでも受けて立つよ」
「うう、店長~~~!! ……あ、そういやこないだアンビーが迷惑かけたんだって?」
「えっ?」
「なんか無理言って店長に入手困難なビデオを仕入れるようにお願いしたとか、って」
「あ、ああー……」

 入手困難なビデオが何のことか思い当たり、アキラは曖昧に笑って見せる。

「アンビーはビデオ屋に当分出入り禁止ってニコに言われてたぜ? 出入り禁止って、かなり重い処分だよなぁ……ってなわけで、アンビーの代わりに俺が謝っとく! わりぃな店長!」
「いや、気にしないでくれていいよ」
「それで、入手困難なビデオってのはどんなやつなんだ? 困難、ってんだから生産がかなり少ないのとか、途中で発売停止になったやつとかか? ってか俺も結構入手困難なビデオ頼んだりしてねぇか!? 初代スターライトナイトの特別版ビデオとかよぉ……もしかして俺も、出入り禁止!?!?」
「いや、それはどうってことないよ。気にしないでビデオ屋には遊びに来ておくれ」
「本当か店長~!? はー、よかった。にしてもこれで大丈夫なんだっていうなら、アンビーが頼んだビデオってのは一体……」
「あ、ほらビリー! おつかい頼まれてるんだろう? 早く帰らないとニコが怒るよ」
「うわあ! そうだった!! じゃ、悪いな店長、また遊びに誘いに行くぜ~!!!」

 ぶんぶんと大きく手を振り、ビリーは滝湯谷に駆け寄っていくとノックノックを見て注文内容を確認していた。アキラはそんな様子を見ながら脇を通り過ぎ、自分のお店へと帰っていく。ビデオ屋の扉を開けようとして、出てくる客に気が付いてドアを開けつつ「ありがとうございました」と声をかけた。中に入れば客は誰もいない。店番の18号は少し疲れたのか体を左右にゆらゆらと揺らしていた。

「ただいま」
「ンナ!」
「リンは降りてきたかい?」
「ンナナ」
「そうか」

 アキラは階段の方を見つめた。階段を下りてくるような音も、二階で動くような音も聞こえない。数回瞬きをしたのち、「リンの夕飯でも作るか」と呟くとアキラはジャケットを脱いだ。

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