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――数日後、まだビデオ屋が開店する前の時間に店の扉が開いた。
「……プロキシ先生、約束通り来たわ」
そう言ってアンビーが入ってくると、アキラが挨拶するよりも先にリンがぱたぱたと駆け寄っていった。
「アンビー、はい!」
唐突に手渡された少し厚みのある茶封筒に、アンビーは不思議そうな顔をする。そして「ああ」と声を上げた。
「これならきっとアンビーが求める内容に合ってると私たちが保証します!」
リンが自信満々に茶封筒に包まれた18禁ビデオ、<二人暮らしの兄妹~ひとつ屋根の下で全部教えて~>を手渡すと、アンビーは静かにそれを受け取った。
「ありがとう。……具合が悪いと聞いていたのだけれど、私の為に探してくれてたの?」
「えへへ、せっかくアンビーに頼られたんだからいいもの探さないとって思って……あ、でもノックノックでも言ったけど、これはアンビーに個人的に用意してあげただけで! この店に18禁コーナーは作らないからね! ねっ、お兄ちゃん!!」
「あはは……もちろんだよ」
「プロキシ先生たち、本当にありがとう。これからもあなたたちのこと、頼りにしているわ」
「いえいえどういたしまして~♪ あ、それとこれからはこーゆー依頼はお兄ちゃんじゃなくって私だけにしてね! お兄ちゃん、困ってたんだから」
「わかったわ。ごめんなさい、プロキシ先生」
「いいや、謝らなくても大丈夫だよ」
少し会話をして、すぐに帰っていったアンビーの背を見送った二人は同じタイミングで「ふぅ」と一息ついた。
「なんとかなったねお兄ちゃん~」
「いや、まだアンビーがあのビデオを見るまでは何とも言えないけどね……思っていたものと違うと言われれば次点で候補に挙がってたものを出すしか……でも……」
「もー今はそんなこといいから! とにかく一仕事やってやった、って感じ! はー、今日も頑張ろう!」
「うん。リンが元気になってよかったよ」
「ええ~?」
アキラが苦笑いをすると、リンはきょとんとした顔をして、それからへへっと笑った。
「さ、開店準備始めよ! お兄ちゃん♪」
「そうだね、リン」
――そしてアンビーが邪兎屋に帰ったあと、このビデオによって更なる誤解を招くことになるのだが……そんなことは二人が知る由もないのである。
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